ヤマノススメ|シナリオスキル|誰にでもあるネタ元
今回のお題は
「ヤマノススメ」から読み解く誰にでもあるネタ元、です。
私と同じ、埼玉県は所沢在住の漫画家で絵師のしろさんが原作です。
“しろ”という名前からは男性か女性か分かりませんが男性作家の方です。
今回お話しする「ヤマノススメ」、いわゆる登山を題材にしたお話しです。
タイトルそのままで女子高生が登山に挑戦します。
登山といってもロッククライミングのような本格的な登山ではなくハイキングとかトレッキングとか、手の届く登山です。
劇中登場する山々は実在するものでその気になれば誰にでも登れます。
いわゆる“山ガール”モノなのですが、原作のしろさんが登山家だそうです。
故に描写にリアリティがあってアニメファンでもない登山ファンからも高い評価を受けているのが「ヤマノススメ」です。
アニメ版は2013年から放映されています。
このコラム執筆時で第3期まで発表されています。
今回は一期と二期についてお話します。
監督は山本祐介さん、短編集の第一期は山本監督自身がシリーズ構成脚本を書きました。
山本祐介さんは演出畑の方で履歴をみるとコンテマン寄りの監督さんです。
30分連続モノに昇格した第二期からはふでやすかずゆきさんが主に書かれています。
ふでやすかずゆき(筆安一幸)さんはアニメを見ているとちょくちょく見かける名前です。
作品によって漢字名義とひらがな名義のケースがありますが同一人物です。
ふでやすさんのホンというと私の個人的な見解ですが、ゆるふわ日常系を書くのが得意な印象です。
第一期は1話15分尺の短編でした。
それが評判だったのか、第二期は30分枠(22分尺)で2クール26話まで拡張しました。
女子高生のヒロイン・・・このお話しの場合は主人公とした方が適当でしょう、主人公はどちらかというと内気でインドア派で、高所恐怖症の「雪村あおい」です。
一応お話自体はあおい目線で語られているので主人公なんだろうな、と想像出来ますがあおいと幼なじみの「倉上ひなた」の存在なくして山には登りません。
メインキャストはこの2人ですが他には登山経験の長い「斉藤楓」と後輩ながらしっかり者の「青羽ここな」が脇を固めています。
このお話のキモは・・・
これってよくあるお話しの作り方だと思うのですが、原作者の趣味や興味あって取り組んでいる物事を架空の女の子にやらせてみる、というパターンです。
主人公が仲間を集め何らかに取り組んで結果を求めることとは至って王道なストーリーテラーです。
お仕事ストーリーも十分ドラマになりますがシビアな側面や夢のない現実も存在しますね。
だからこういった趣味や好きでやっている事を題材にして架空の人物にやらせてみます。
原作のしろさんだって登山を通じて、その経験によって得られるものが実感できているからこそ「ススメ」ているのでしょう。
「無趣味」という方もおられるとは思いますが具体的な行動として認められなくても誰でも好きな物事くらいはあるでしょう。
それをシナリオ化します。
そうするとことのほか、アイディアが湧き出てきます。
「ヤマノススメ」を見てみるとキャストの構図は至って単純です。
高所恐怖症の主人公を牽引するキャストを置いて、それを助長するキャストに加速を促す、これだけです。
そして描かれる世界は作者の好きな物事です。
この場合、謙遜はなしです。
あなただったらあなた自身が感じている魅力を、登場人物を使って思う存分表現します。
しろさんの登山における魅力をどうこの作品で書かれているのかと言えば、それは非日常な景色です。
他にもたくさん紹介されていますが、ことさら山に登って得られるものとして“絶景”を挙げられています。
特に日の出の描写がよく出てきます。
それはそれは美しいそうで、山などに登ろうとしない私でも「一度見てみたい」と感じさせてくれます。
あおいは元々高所恐怖症などではありませんでしたが、訳あってインドア派として落ち着いた高校生活を送ろうとしていました。
あおいの目線、これが我々視聴者目線です。
我々は誰も彼も、みんながみんな登山に興味があるわけではありません。
それは魅力を知らないからです。
知れば10人中10人とは行かなくても何人かは登山してみようか、と思うはずです。
そう、知れば、知ることが出来ればやってみようと思えるのですね。
その効果をもたらすキャラクターがひなたです。
あおいとひなたの関係性とは共有という価値観で繋がっています。
他人と価値観を共有すること、これがこの作品のテーマだと思われます。
簡単に言うと「ヤマノススメ」のタイトルそのままに勧められて取り組んでみた結果、他人と同じ価値観を共有することが出来ればとても幸せな感情になりますよ、というものです。
それを表現したくてあおいとひなたとかえでさんとここなちゃんがいます。
しろさんの感じた感情を彼女たちに代わりに演じさせて表現しています。
これって誰にでも出来ると思いませんか?
何でもいいのです。
あなたが魅力を感じていさえすれば役者を媒介として表現出来るのですね。
私のこのコラムのように“シナリオ”だって題材として十分使えます。
使えるのですが、ただし・・・
出来ればアクションのハッキリした題材の方が書きやすいです。
こればっかりはしょうがない。
インドアな頭脳作業よりアウトドアで動き、動作のハッキリしているネタの方がシナリオ的には断然書きやすくなります。
だから映像とスポーツものって切っても切り離せない関係にあります。
「自分の趣味なんか書いてもしょうがない、マイナーだし・・・」
でも、それがいいのです。
あなたにしか分からない、あなたしか感じていないのかもしれません。
でも魅力を感じているのならば必ず共感できる人が世の中にいます。
それをシナリオにします。
その作業は楽しいはずです。
ぜひ一度は取り組んでみて貰いたいと思います。
今回紹介している「ヤマノススメ」には単に楽しさや魅力面だけ表しているわけではありません。
山に登る際のリスクもちゃんと描かれています。
ちゃんと描くことによりリアリティを出しています。
シナリオ的に言えば・・・
順調な様子だけ描いているだけでは魅力は伝わりません。
シナリオとは邪魔するものがあって、それを克服する様子を経て人物の“変化”を描く物です。
だから楽しかったり嬉しかったり、そういった魅力面だけの描写では不十分で負の側面、ネガティブポイントをあえてぶつけて人物の変化をあぶり出します。
その変化が人から「面白い」と言われる要素になります。
「ヤマノススメ」で言えば・・・
お話しのターニングポイントとして、あおいたちが富士山に登るエピソードがあります。
富士山に登って頂上からご来光を見るというものです。
単純に登頂して日の出を見る、というものですがメインキャストのあおいは適いませんでした。
途中で挫折してしまいます。
この経験があおいの成長を助長します。
失敗をあえて描くことで変化を鮮明に描くことが出来るようになります。
本来登山とは厳しい自然に挑戦することです。
だから油断すると厳しい仕打ちに遭います。
それこそ遭難して命を失う事だって現実にあるのです。
人の取り組むものでノーリスクのものはありません。
必ず側面が存在します。
でもそれを解決しながら目的を目指すところ、達成することに魅力の創出が出来るわけですし、輝きます。
簡単に登頂できたら誰も挑まなくなります。
困難があるから、克服する価値があるから人は取り組めるのですね。
そんな「ヤマノススメ」を見ながらシナリオを書く事ってなんなんだろうと感じてしまった私ですが、あなたはどう思われるでしょうか。
なぜ山に登るのか、それはそこに山があるから、なんですね。