NORN9|シナリオスキル|ユーザーターゲット
今回のお題は
「NORN9」から読み解くユーザーターゲット、です。
“のるんのねっと”と読みます。
カタカナ表記だと“+”が入ってノルン+ノネットとなります。
オトメイトというゲームレーベルのオリジナル原作です。
2016年に放映されました。
アニメ版の監督は阿保孝雄さん、シリーズ構成は高橋ナツコさんです。
阿保孝雄監督は絵描きから絵コンテ、演出と進まれてきた方です。
高橋ナツコさんは映像作家出の脚本家です。そうとうマルチなホンを書かれる人で私的には当たりもあればハズレもある脚本家です。
近年の印象としては女性向けのお話しが得意で上手い人でもあります。
ネット上では筆が遅い、らしいですが繊細な描写が私は好きです。
さて、
NORN9は、とにかくデザインが美しい作品です。
Kinema citrusとCGアニメーション制作のオレンジが手がけていますが、あらゆるデザインにおいて美しく秀逸なのが特徴です。
キャラデザに然り、美術に然り、配役やモーショングラフィック、音楽に至るまでそうとう品質の高い作品になっています。
毎年、毎期たくさんのアニメ作品が発表されますが、なかなかこのような完成度で訴求する作品はいくつもありません。
特に世界観はさすがゲームを売りたいだけあって単なる個人作のラノベや漫画原作を凌ぎます。
単純に映像美だけでも楽しめるし、もちろん物語も面白い作品です。
デザイン面で言えば、例えばシナリオでも関係してくるタイトルも凄く凝っています。
“NORN”ノルンとは北欧神話に出てくる女神3姉妹を指します。
ウルズ、ヴェルサンディ、スクルドをまとめてノルンと称する場合が通説のようです。
3人の女神という意味はこの作品で登場するヒロインたち、こはる、深琴、七海を示唆しているともとれます。
“9”をノネット、と読ませていますが何語か調べてみたら音楽の重奏のことでありました。
ひとりで演奏するものを“独奏”と言いますよね。その複数形で奏で合わせる楽器の数によって名前が付いています。
二重奏がデュオ、三重奏がトリオ、四重奏がカルテット、ここまでは聞いたことがあると思いますが、
五重奏がクインテット、六重奏がセクステッド、七重奏がセプテッド、八重奏がオクテッドと続き・・・
九重奏が“ノネット”となります。
登場人物の中で男役ヒーローが9人います。これと掛け合わせた表現を単なるナインとしないでノネットとしてあります。
いやはや、よく考えたものです。
3人の女神と奏者が9人。
ただなんとなくイメージしただけのタイトルとは違い、ちゃんと意味を持たせてあるのです。
それにロゴタイプのデザインやアイコンのデザインなど必ず意味が付帯されているのを感じられます。
こういった細かいディテールも作品の完成度に必要なんだとつくづく感心させられる作品なのです。
で、ようやくお題のお話しですが・・・
この作品の顧客ターゲットはズバリ、女子です。
女性向け乙女ゲームが原作なのでアニメもそうなります。
私はいくらアニメ好きとは言え、男が踊るより女の子が踊った方が見ていて楽しいと感じるので滅多に女子アニメは見ません、対象外です。
“アイナナ”などは、知っていますが見ていません。
でも昨今、いままで男がユーザーターゲットのメインだったアニメ業界もだんだんと女子の欲望を満たす作品が多く出される時代になりました。
腐女子の好物であるBLも市民権を得られる(?)時代になりました。
シナリオ的にもこういったターゲットは決めなければならない重要な要素です。
つまり「誰に向けてお話しを語るのか」というものです。
けっこうシナリオを書こうとすると作者が書きたい話になりますが、実はこのようなターゲッティングを明確にしておかないと対象ユーザーに最後まで見て貰えません。
それは単純に男性向け、女性向け、中学生向けでも構いませんし、自分の書きたいお話が自分を含めてどんな人に向けられているのか、でも構いません。
何でそういったことを決めなければならないのかというと、目線によって表現が変わるからです。
キャラ設定にしても男目線で男を見ているのか、女目線で男を見るのかによってまったく変わります。
その点、NORN9はバランスがとても取れています。
一方的な偏りがありません。
ゲームのメインとしては女子がそれぞれタイプの違うヒロインを自分に照らし合わせて当てはめて、好みのヒーローたちから選んで攻略する、といった趣旨が女子向け乙女ゲーです。
だから当てはめるヒロインの設定は少なめで、攻略する男役はその3倍になっています。
あくまで女子が主役で男を品定めしたいのでこういった配役が決まります。
故にターゲットを決めないと登場人物も確定できないのですね。
私がこの作品を見て評価出来るのは、映像的にきれいと言うこともありますが、ヒロインたちにしっかりとした魅力があるからです。
自分を当てはめる、と言いましたが単なる自己投影するだけではありません。
ユーザーの「こうなりたい」という願望も叶えてあげないと感情移入して貰えないのです。
だからそれぞれのヒロインたちには素敵な魅力が与えられています。
それは男の私から見ても感じられます。
たいがい、こういった女子アニメは逆ハーレムチックになります。
1人のヒロインがたくさんの男に囲まれる、みたいな。
かつて男子にそういった願望があって、それをイメージ化したアニメが最初に台頭しました。
女子アニメで登場するメインのヒロインはひとりお姫様状態です。だから比較対象もなければ女の子より選ばれる男役に魅力付けが成されていました。
それは男的に見ていてあんまり面白くありません、正直言って。
この作品は女子の理想に幅を持たせて描くことで重ね合わせを促して感情移入を誘うように作られています。
一般の腐女子向けアニメとの違うところです。
そうすれば本来対象外の男子でも食いつける余地ができて私みたいに感化されればファンになってくれます。
このようにいろんな波及効果を検討するにしても最初のターゲッティングがあって設計することが出来ます。
さらに現代ではかなりニッチなニーズにも対応しているのが今時のアニメです。
特徴があるほど作品の魅力に繋がります。
シナリオ的にターゲットを決めたらそれを拡張出来ないか、検討します。必要なら人物を増やしたり減らしたりします。
その判断も自分が書きたいもの、ではなくターゲットがどう感じるのか、から始まります。
この作品の物語自体はロードムービーでいたって平凡ではありますが、やはりストーリーボードがしっかりしているのでありきたりな恋愛でも面白く見られるのです。
ヒロインが3人いるので3通りの恋愛劇が平行します。
またこの作品はこういったマルチな設定がうまく組み合わせてあります。
ヒロインが複数ということに加えて、
描かれている時代背景もひとつではありません。
メインヒロインのこはるが生きている時代は大正時代、ノルン(劇中は空を飛ぶ巨大な船の名前になっています)に乗り込むと現代の様式、ノルンや世界と呼ばれる組織、リセットや愛音の設定は未来技術と、物語の時系列に過去現代未来の要素が組み込まれています。
これも私が感心した部分で、柱(場所)を変えればタイムスリップしなくても同じ時間軸で時代が変えられるんだ、と気が付きました。
やっぱりゲームのシナリオは立体的な設計が上手いと感じます。
こういったいくつもの要素を組み合わせる技術は本当に慣れていないと書けないものではありますが、この作品はプロが本気で作るとこうなるよ、という完成度であると思います。
乙女ゲーム恐るべし、です。