プラスティック・メモリーズ|シナリオスキル|死を迎えるまで
今回のお題は
「プラスティック・メモリーズ」から読み解く死を迎えるまで、です。
オリジナルアニメコンテンツです。2015年に放映されました。
制作は老舗の動画工房、プロデュースは志倉千代丸さん率いるMAGESです。
監督は藤原佳幸さん、原作と脚本はMAGES所属の林直孝さんです。
林直孝さんはアニメというよりかゲームシナリオライターですが最近ではアニメシナリオも手掛けられております。
とかくゲームシナリオに精通している人は心の琴線に触れさせるシナリオが得意な印象があります。
このプラスティック・メモリーズもそういった作品です。
なんでも林さんが10年以上暖めていたシナリオだそうで見てみるとよく熟成されています。
そうです。
泣けるお話しです。
舞台は未来の日本、アンドロイドが普及した時代です。
劇中登場するアンドロイドは「ギフティア」と呼ばれていて人の感情を備えたロボットです。
それこそ生身の人間と見分けが付かないくらいに精巧に出来ています。
ただしこのギフティアには大きなカセがあります。
それは寿命が限られていること、誕生してから81920時間しか持たないことです。
9年ちょっとですね。
それを過ぎるとシステム的に狂いだしてしまいます。
人としての理性をも失い始めてしまいます。
人の脅威となってしまうため寿命を迎える直前にメーカーであるSAI社が“回収”します。
主人公の水柿ツカサはそのメーカーであるSAI社にコネで入社したものの、窓際部署のギフティア回収担当である第一ターミナルサービスに配属されました。
そこでヒロインのアイラと出会います。
ターミナルサービスの仕事は「思い出を引き裂く」ことです。
寿命を迎えるギフティアのオーナーと折衝して回収に同意して貰い、実際に機能を停止させて身柄を引き取ります。
ほとんど人と違いのないギフティアは人々の心に浸透しています。
それでも人間ではなく機械なので壊れる前にオーナーに納得して貰い、いわゆる「お別れ」をして貰うのが主な仕事内容です。
普通の家族同様かそれ以上の関係性を壊す仕事、つまり絆を断つお仕事です。
アイラは「この仕事は決して報われない」と言います。
ツカサのパートナーとなったアイラ自身もギフティアで、それも近い将来寿命を迎えてしまいます。
一応ラブストーリーですが“報われることのないラブストーリー”なのです。
ハッピーエンドのない前提があります。
プラスティック・メモリーズはそんなアイラと出会って寿命を迎えるまでのたった3ヶ月間のお話しです。
さて、
シナリオ的にはほとんどアイラの個性やその仲間たちとのエピソードに費やされています。
脇役にもちゃんと主人公級の個性が与えられていて、いろんな視点で2人の関係性が描かれています。
主人公のツカサは我々と同じ観客の目線です。
至って普通の男子です。特別何の変哲もない常識人です。
おちゃらけてもいないし真面目な男です。
だからもし、アイラのような女の子とパートナーを組んだとして・・・どうなるのか、どうするのか、そういった感情移入が出来るようになっています。
ストーリーテラーは、例えて言うならば外堀から埋めるやり方です。
ターミナルサービスの仕事を通じていずれアイラにも訪れるであろう結末のケースがいくつか描かれます。
その過程を経ながらツカサとアイラの距離が近づきます。
それがまた、丁寧に描かれているんですよ。
1クール13話のほとんどそういった描写に使われています。
そして見ている我々に問いかけます。
「あなただったら、好きな人の寿命が決まっていたとしたらどうしますか?」
そんな印象を与えてくれます。
くっつくでしょうか、あえて離れるでしょうか。
そんなツカサの葛藤が痛いほど伝わるシナリオに仕上がっています。
ギフティアは機械なので決まった日時までに機能を止めなければなりません。
そうしないと「ワンダラー」というバケモノに変貌してしまいます。
さっきまでいつもと同じように接していた人(ギフティア)がいきなりOFFになるのです。
リアルではその様なことはありませんよね、人の寿命は分かりませんし、決まっていません。
予告もありません。
当人もその周りの人も分かりません。
それが分かっていたらどうするのか、どう生きるのか、どう振る舞うのか、そんな架空のお話しを通じて“死”というものを見つめています。
“終わり”があるのはギフティアだろうが人間だろうが同じです。
人生の終わりは誰もが知りたいことでしょう。でも知ったとしてもそれをどう受け止めるのか、それがこの作品のテーマになるのでは、と思います。
いやはや、志倉千代丸さん絡みのお話しにはこういった普遍性を描くのが本当に上手い。
ギフティアの存在は我々人間の生と死の比喩です。
志倉千代丸さんの作品は私的には当たりもあればハズレもありますが、いずれにしても時間の使い方や人物の変化の過程を描かせたら天下一品です。
アイラの心情変化が一目で分かる演出もされています。
オープニングの最後のカットを毎回変えているのです。
その都度アイラの表情に違いを持たせています。
最初は視線を合わせないアイラが最終話では満足そうな泣き笑いをしています。
こんな細かい工夫もあまり例を見ません。
アイラの心情変化、これが見所なのですね。
たった最終話の1シーンだけのため、感情変化が描かれます。
そしてどこでアイラは最期を迎えるのでしょうか。
これは言えません、でも最高に美しいシーンで締めくくられます。
初めて見たときにはガン泣きしましたわ。
クライマックスのこのシーンは是非見て貰いたいと思います。
とても素敵なシーンなので。
我々は普段自分の死を意識して生活していません。
でも心のどこかでは忘れることのない現実です。
そんな深層心理をえぐってくるのがこの「プラスティック・メモリーズ」です。
いっそのこと、アイラみたいに自分の死に様が選べたらいいのに、と考えてしまいました。