トワノクオン|シナリオスキル|ヒーローモノ勧善懲悪の形
今回のお題は
「トワノクオン」から読み解くヒーローモノ勧善懲悪の形、です。
アクションヒーローモノです。
2011年公開の劇場版オリジナルアニメで全6作品公開されました。
飯田馬之介監督とアニメ制作会社ボンズの企画ですが、飯田監督は企画進行中の公開前年に急逝されました。
その後もりたけし監督が引き継いで完成させた作品です。
飯田馬之介監督は1980年代から活躍されていたアニメクリエイターで「天空の城ラピュタ」の設定では宮崎駿監督の共同考案者です。
遺作となった「トワノクオン」では監督として飯田氏の名前と協力監督として、もりたけし氏の名前がエンドロールに流れます。
シリーズ構成は根元歳三さんです。
さて、
いわゆる勧善懲悪のアクションヒーローものですが飯田監督の得意な設定、ストーリーボードに魅力があります。
ヒーローモノでは初めから善と悪が示されます。
昔の勧善懲悪モノは単純にヒーローとバットキャラクターの設定だけでその後ろにあるサブストーリーにおいての設定はあまり無かったように思われます。
見た目カッコいいヒーローと見るからに悪役っぽいキャラクターだったりしました。
そして必ず善が勝ちます。
その点この作品のように現代のヒーローモノはヒーローとそのサブキャラクターまで、また悪役にまでサブストーリーを持たせてあったりして個性を表しています。
主人公でヒーローのクオンは太古の昔から生き続けて現代に至る不死身の異能者です。
「アトラクター」として異能者の保護や育成に尽力しています。
クオンはアトラクターのリーダーとして、人々から忌み嫌われて簡単に排除、殺されてしまう同じ異能者を守ろうとします。
アトラクターが善の組織です。
異能者を狩ったり捉えて虐げる悪役側が「クーストース」でサイボーグを使った武力組織です。
このように善と悪が最初からハッキリ分かります。
それぞれ属性が決められた世界の中でそれぞれのキャラクターが描かれています。
そして例えヒーローであっても完全ではありません。
ヒーローモノのヒーローとは総じて不完全な存在です。
ヒーローといえども出来ないことの方が多いのです。
力はあるんだけれど、全て思い通りにはならない現実を描いています。
そこに人物の葛藤が描ける余地が生まれるのです。
勧善懲悪はこんな感じで分かりやすいのですね。
だからヒーローとは悪を挫くために存在しているのでは無く、シナリオ的に言えば矛盾や葛藤を表すために存在しています。
割と損な役回りです。
クオンもご多分に漏れず悩み苦しみますがヒーローたる信念は曲げません。
同じ異能者に攻撃されても守ろうとします。
ヒーローとはヒーローであることが存在理由では無く、ヒーローが兼ね備えている包容力や愛情といった表現の、目に見える形のひとつなのです。
無類の愛情、これがヒーロー像の根底にあります。
普通の人では無類の愛情があっても表現しきれません。
感情と力は合わさって絵になります。
対して悪の方はそこんところが欠落しています。
悪役の悪役たる由縁、王道が愛の欠落ですね。
シナリオ的にはぶつかり合いを描かなければ面白くならないので同じ価値観は描けません。
ぶつかるためには相違が必要なのです。
善の感情と悪の感情を同じには描けません。
この作品はその相違に整合性のある設定がなされています。
それぞれ、「なんでそうなったのか」という理由があります。
そして実は善と悪の動機の発祥にたいした違いはありません。
どっち側の行いを選択したのか、それはその事情や理由から発した解釈の違いです。
この事情や理由という設定がこの作品の面白いところです。
同じような動機や事情でも、やることは善と悪に分かれます。
だから互いに必死になります。
善が必ず強くて勝つ訳ではありませんし、簡単に勝たせてはいけません。
悪も善と同じかそれ以上の動機により決死の覚悟でかかってきます。
力が均衡していてドラマになります。
また、ラスボスのような絶対悪は存在しなければ悪役の筋が通りません。
悪役たる証明でもあります。
善の方は意外と単純でも悪の設定はけっこう複雑だったりします。
シナリオ的には悪の方が描きがいがあると言っては語弊がありますが、悪役にこそ個性付けのできる余地があります。
連邦軍のガンダムより、ジオンのザクの方が魅力あります。
このように勧善懲悪のアクションヒーローモノは構図が分かりやすい反面、設定がモノをいいます。
その設定とは善側と悪側の“重なる”部分を描くことだと感じました。
クオンと悪役側の瞬は過去に人を殺めた経験があります。
その後の選択において善と悪に分かれました。
重なる部分とは表面的では無くて、ディープな部分において必要な要素なのです。
シナリオは「どうしてそうなった」を書くものです。
何で善と悪に分かれたのか、最初に見せられたヒーロー側と悪役側と「どうして分かれたのか」そこに面白さが盛り込めるのです。
そして分かれた結果、どうなった、が描けるのです。
飯田馬之介監督の名前を知ったのは「戦闘妖精雪風」という作品でした。
この作品も設定が優れていて戦闘機モノですがファンタジーとの組み合わせが面白かったのです。
やはり、アニメは画が命なんでしょうね。
シナリオも面白いのですが見た目には適わない部分があります。
もう古い話になりつつありますが、優秀なクリエイターがいなくなることは、やはり寂しいと感じた「トワノクオン」でした。