シナリオ、脚本のセリフの書き方
シナリオ3要素の中で一番書かれる要素が多いのがト書きの特徴だ。
その守備範囲は多岐に渡る。
柱やセリフと比べても、比べものにならないくらい大きい。
そしてシナリオをわかりにくくしているのもコイツだ。
シナリオ脚本のト書き【基礎知識編】
ト書きの記述ルール
- ペラの冒頭、一マス目から3文字インデント(字下げ)して、4マス目から書く
- ト書きの書ける範囲はペラ上で実質縦17文字しかない
- 改行した場合でも3文字下げて、頭揃えする
- 簡潔、明瞭に書く
ト書きはペラの頭から3文字を下げた4マス目から書いていきます。
3文字のインデントですね、字下げをして改行しても頭揃えします。
ト書きは長い文章になって改行する場合はペラの一文字目から書くのではなく、必ず3文字のインデントをします。
この3文字インデントされている部分がト書きとなります。
ペラを俯瞰してみて3文字下げて書かれているのがト書きだよ、と分かります。
ト書きには柱みたいな一行で書かれるといったボリュームの縛りはありません。
シーンによってはかなり長い文章になります。
それこそト書きだけでペラ一枚使い果たすことも珍しくありません。
ただし、ト書きのルールとして簡潔に書かなければなりません。
なるべくシンプルに短く要点だけ書かなければならない、ということです。
ですのでト書きには敬語や接続詞や装飾語も使えません。
どうしても必要な場合だけ、例えば接続詞を使うにしても書かなければ伝わらない時だけ必要最低限の文言で書きます。
ト書きに書けること【概要】
柱の場所指定と人物のセリフ以外、撮影に必要な要件は全てト書きに書きます。
- 様子
- 動作
- 状況
- 描写
- 環境
- アクション
- 人物詳細
- 擬音
- 具体的なシーンイメージ
- 作者の意図、要望
- その他諸々
ト書きとはなんぞや
冒頭のカテゴリー「シナリオ、脚本、とは」では、ト書きとは場面の様子や動作を表すんだよ、と申しました。
意味としてはそのままなのですが、このト書きに書くこととは正確に言うと、
場所指定と役者がしゃべるセリフ以外、映像に必要な指定は全部ト書きに書く、ということです。
というか、シナリオ上ではこのト書きにしか書くところがありません。
冒頭では様子や動作程度しか言いませんでしたが、実際には状況だったり、描写だったり、アクションだったり、物語に付随する要件を全部書き入れるところが「ト書き」になります。
シナリオの3要素の中で一番ボリュームも多くてカバーする部分も一番大きく、守備範囲も広く、汎用性の高いのがト書きの特徴です。
柱の指定で足らない部分もト書きの始めに書き入れます。
一番有機的な要素を盛り込むのがト書きの役割となります。
ト書きを書く順番
ト書きも柱と同じように映像に映る順番で書き並べます。
映像の順番を想定して書き進めます。
大概、ト書きの場合はト書きで状況説明をしてからその状況の中で役者がしゃべるセリフを書いていきます。
それでもシチュエーションによってト書きセリフ、とならないこともあります。
つまりセリフをしゃべる前かしゃべっているまでならばト書きの後にセリフが来ます。
しゃべった後の動作ならば当然セリフの後にト書きが来ます。
シナリオは書いたとおりに撮影されますのでその順番とは作者が実際にどう見せるか、に準拠します。
だからト書きの後にセリフということではありません、固定ではないと言うことです。
ト書きこそ、読み慣れないといけない
シナリオを読み慣れなければならない意味とは、このト書きにあります。
ト書きって普通に書かれていないんです。
とっても理解しづらくなっているためなんです。
わかりにくいし読みづらいし、読んでみても理解が出来ません、だから慣れなければシナリオは読めないし、書けないのですね。
普通に書かないのですよ。
例えば・・・
「主人公の女の子Aが悲しんでいる」、というシーンがあったとします。
この場合、小説や普通の作文では単に「女の子が悲しんでいる」だけで意味が通ります。
ですがシナリオのト書き的にはNGなんです。
シナリオのト書きでは、悲しいとかうれしい楽しいなどの形容した表現って基本的に使えません。
あくまで基本的に、です、例外もあります。
ではト書きではどう書くのか、といいますと、
例えばこう書きます。
「女の子A涙を流す」 とか 「肩をふるわせている女の子A」 なんて書きます。
この違いってお分かりになるでしょうか。
単に女の子が悲しんでいると直接的に書けば伝わるものをわざわざ長くしてまで違った表現をしています。
その表現とは動作の部分だけ、なんですね。
つまりその表現動作の見た目はどうなっているのか、の「どうなっているのか」の部分、これしかト書きには書けません。
女の子が悲しんでいる、とすれば、ではそのシーンで女の子が悲しんでいるとは、どのような様子なのか、それはどんな動きをしているのか、をト書きに書くと言うことです。
小説では「女の子が悲しんでいる」でも通じます。
読者は悲しんでいる女の子を想像して理解します。
ちなみにこのような表現を 「地の文」 と言います。
ト書きに地の文は書けない
本の文字媒体では地の文で意味を伝えることが出来ますが、映像媒体の設計図でもあるシナリオは、実際のアクションの部分しか書けません。
アクションとは目で見える部分もそうですが、耳で聞こえる部分も含まれます。
「悲しい」 とは何をやっているのか、を書かなければなりません。
映像の特性として、イメージを視聴者の想像に任せていないのです。
具体的な絵面として 「悲しい」 を見せなければなりません。
これを描写といいます。
シナリオに地の文は書けないのです。
これを理解するのが非常に難しいのです。
でもこの難しいながら、具体的な動作で表すことが小説とは違った表現手法でもあるシナリオの表現、醍醐味でもあるんですね。
シナリオに読み慣れることとはこの表現の違いが理解できないとシナリオとして書くことができません。
だからシナリオを読めない人に自分の書いたシナリオを読ませて見ても伝わりませんし、伝わるわけがありません。
また、一例として「女の子が悲しんでいる」という動作を挙げましたが、その女の子は柱で指定した場所のどこに立っているのか、座っているのか、もしかしたらトイレに入ってるかもしれません。
だれか他の人がいるのかもしれません、ケンカしているのかもしれません。
こういった場面の一切合切の、目に見える部分だけ、あと耳で聞こえる部分に限ってト書きに指定しなければなりません。
解釈に苦しいと思いますが、
でも慣れてくると案外書けるようになります。
頭の中にシーンのイメージさえあれば、そのイメージをそのままペラに写すだけでシナリオは書けてしまいます。
間接表現
問題はそのイメージをどう作るか、なのですが、
こんな間接的な表現なんて普段私たちは日常でやっていませんので、だから慣れなければならないのですね。
ついついいつもの表現、形容した表現でト書きに書いてしまいます。
でもそれはシナリオでは間違いになります。
ト書きには画面に写っている様子や動きや状況、変化、そして人の感情も目に見える部分、耳で聞こえる部分に限ってだけ書くことができるのです。
ありとあらゆる要素を間接的に書きます。
間接表現ですね
シナリオには間接表現で書き進めることになります、地の文みたいな直接表現では書けません。
しかもト書きには具体的に、記号的に、簡潔に、端的に書かなければなりません。
状況が複雑でもなるべくシンプルに描写します。
伝えたいそのシーンはどうなっているのか、を見える部分だけ、聞こえる部分だけ抽出して書いて、それらが合わさって伝えたい意味を表します。
これがシナリオなのですね。
本当に初めての方ならばト書きに書く間接表現って理解しにくいものと思います。
ただ、今段階ではとりあえずのなんとなくでいいと思います。
特にト書きは書くことも非常に多く表現そのものを表すセクションですので一度に覚えようとしない方がいいと思います。
とりあえずなんとなくト書きはこういうものというイメージを掴んでみてください。
自由度が高い
言い忘れていましたが・・・
シナリオに書くことって作者さんの個性がバリバリ出るものでもあります。
ト書きにしても一定のルールはあるのですがそれをある程度満たしていればけっこう自由に書けるものでもあります。
要するに、制作者に伝わればいいだけの目的ですので私の言っていることがすべて正しくて、絶対にそうしなければならないと言うことではありません。
伝わらないとダメなのですがそれができてしまえばあとは作者さんの思う存分書けるのがト書きの書き方になります。
ただし、上記の書き方概要は最低限守らなければなりません。
シナリオは映像の設計図とは何度か申していますが、いわゆる指示書なんですね。
書かれている文言で読み手を楽しませる必要もありません、面白いと感じてもらう描写は書かなければなりませんが書かれている文言自体は無機質なものです。
ト書きは特に表現を説明する特徴からどうしても長くなりがちですが、それでも必要な文言だけで簡潔にします。
小説に書かれているような辞書で調べなければ意味が分からないような単語なんかは使えません。
このような文言の使い方を 「棒のように書く」 といいます。
「棒のように書く」
例えば、
女の子Aが男の子Bをひっぱたく、といったシーンがあったとします
その場合はこう書きます。
3文字インデントして・・・
『大きく手を振り上げる女の子A、男の子Bを睨む、振りかざした手が男の子Bの頬を叩く、バチ〜ンと響いた瞬間、カラスが鳴きながら飛び立つ』・・・みたいな。
これって書かれていることっていたって無機質ですよね。
単純に動作の部分だけ、目に見えるところだけ、耳で聞こえる音だけ、無機質に必要最低限の分量で書くことを 「棒のように書く」 といいます。
この棒のように書くことだっていつもの日常ではやっていません。
ですので私もシナリオを書くときについ書き過ぎてしまいます。
イメージを膨らましすぎて余計な文言を書き過ぎちゃって、あとになって削るということがよくあります。
こういった場合、削って略さないといけなくなります。
具体的なト書きの記述
ト書きの書き方として、まず、ペラ頭3文字インデントするのでペラに書ける範囲は一行17文字しかありません。
18文字目は改行して次の行の4文字目から書くことになりますが、この場合18文字目にあたるマス目に・・・
句点 、 読点 。 閉じ括弧 ) 閉じカギ括弧 」 などの記号がくる場合、行の真下の欄外に書くことが出来ます。
多分簡略化のために許されていると思われます。
これって手書きの場合に限りますね、お見せしているようにパソコンで入力する場合はエディタでも使わない限り上手くいきません。
特殊な一例ですが、要するに読み手が読みやすいように簡略して書くことがマストだよ、ということです。
それでも文脈そのまま改行も絶対にしない、ということではありません。
ずうーーと描写から撮影指示から何から何まで改行しないでまとめて書きなさい、ということではないのです。
必要なら改行もやっぱりします、そうしないとわかりにくい場合は改行するべきなので、だから句点や記号は欄外に書いても意味が通じるのでそのように書くことが許されています。
なんでもかんでも書かなければならないト書きは描写も書きますし、指示やイメージや作者からの要望なんかも書き入れます。
ありとあらゆる撮影に必要な要件を書くのでそれらを連続して書いてはやっぱり見づらくなります。
例えばタイトルを出したい場合にはちゃんと改行して3文字字下げした頭から書き入れます。
そのほうが見やすくなるなら、そうするべきなんです。
簡潔に、明瞭に書くことが求められるのがト書きの書き方です。