citrus|シナリオスキル
今回のお題は
「citrus」から読み解く変化するキスの意味、です。
禁断の百合モノの考察です。
私的に見ているアニメでもあまりおおぴらに言えないジャンルでもある百合モノであります。
さすがに男同士、いわゆるBLモノには興味がわかないので手を付けていませんが、基本女好きの私的には可愛いくて画がきれいなら何でもアリ、ということで何作かけっこう百合アニメは見ています。
百合モノの面白いところ、というか秀逸なところとは、感情の描写が繊細なんです。
ただエッチなだけではありません。
人物の細かな感情描写が百合モノには顕著に存在します。
シチュエーションが非常識なだけあって面白いジャンルでもあります。
軽いものであれば、というかユルい百合モノであればタイトルそのまま、なもりさん原作の「ゆるゆり」があります。
「ゆるゆり」はコメディとして女の子同士の友情プラスアルファ程度の百合っぷりですが、今回紹介する「citrus」は割とガチです。
描写も生々しくて完全に大人向けのアニメです。
具体的には女の子同士、しかも義理とは言え姉妹関係の中で愛情を育む(?)お話になっています。
だからあらすじだけ見るとほとんどエロアニメです。
話飛びますが、ちょうど今回のコラムのネタを何にしようか、考えあぐねていたときにニュースで同性婚を認めた国の話題を聞きました。
その国とは台湾です。
同性同士の結婚を法的にも認め始めたそうです。
私は個人的な意見として、魅力を感じる相手であれば異性でも同性でもいいんじゃね、とか思いますが私自身が女好きということも相まって男同士には興味ありません。
男同士なんかぜんぜん美しくないし、だいいち絵にならないからです。
そのあたりはコアな腐女子に任せるとして、
その点、女の子同士なら仲が良ければ普段からペタペタしているし、そんな姿を見ても違和感無いし、あとは一線を越えるか越えないか、それも大した選択でもありません。
感情とは行動が伴って初めて伝わるものですから、お互いが納得すればいいだけの話です。
その行動の一端、というか最初の段階にキスがあります。
今回の「citrus」もどこまで踏み込んだ描写をするのかな、と楽しみにしていましたが、やはりエロアニメではないのでキス止まりでした。
ちなみに「ゆるゆり」はキスシーンと言っても単に千夏の実験台としてあかりが無理矢理くちびるを奪われた、くらいで愛情表現としてのキスではありませんでした。
ガチキスシーンのある百合モノと言えばタチさん原作の「桜トリック」があります。
「桜トリック」では高校生の思い出として何か特別なことをしよう、という意図で親友同士キスをする、といったものでした。この作品も楽しいのでご興味あれば見てみて下さい。監督がいいですし。
「citrus」では女の子同士がキスをするのですが、同じ行為のキスでも意味合いや変化を持たせてあるところがこの作品の特徴でもあり、大人向け、大人で無ければ理解出来ないような内容になっています。
性欲一辺倒でない、とても甘くて酸っぱい感情描写としてキスを用いています。
甘酸っぱい感情、だから「citrus」=柑橘類なのかな?と感じてしまいました。まあ、メインヒロインの名前が“柚子”だからかもしれません。
サブロウタさんの漫画原作で一迅社の“コミック百合姫”に連載されていました。
漫画原作者の描くキャラってイマイチな印象ですが、サブロウタさんはアニメチック、キャラデザチックな画を描かれるようで可愛いですね。
アニメ版は2018年に発表されました。
監督は高橋丈夫さん、「まおゆう」の監督さんですね。
そう言えば高橋監督は「ヨスガノソラ」の監督さんでしたね、他にもけっこうエロアニメにも参加されている方で、それで描写がエロ上手いんですね。
シリーズ構成はハヤシナオキさんです。ちょっとプロフィールが出てきませんが高橋監督系の方でしょう。
百合関係を描く作品なのでメインヒロインとしてふたりいます。
主役の藍原柚子は転校生です。天真爛漫な明るい性格で派手な女の子です。
ヘアースタイルや化粧、アクセを楽しむ一見チャラい女子高生“ギャル”ですが、以外と真面目で一本気な性格設定になっています。
相手役は藍原芽衣、柚子と同い年で学校の生徒会長でもあります。
柚子と芽衣の通う女子校はお堅いお嬢様学校です。
そんな学校の生徒会長を務める優秀で堅い性格の芽衣に当初柚子は反発します。
つまりは“あんなヤツ大嫌い”からお話しが始まります。
ふたりは再婚した両親の連れ子で、つまりは大嫌いなヤツと家族になってしまいます。
このお話しの導入インパクトは芽衣にあります。
堅くて大人びた性格の芽衣はその性格とは裏腹に女同士キスをすることに迷いがありませんでした。
誰でも彼でもキスをする、ではありませんが他人とキスもしたこともない処女の柚子の唇をいきなり奪ってしまいます。
その行為が柚子の感情に変化を促していきます。
ホントに高橋監督はこんな非常識をサラッと描いてしまう秀才ですね。
キスシーンがこの作品のメインモチーフですがオープニングからふたりのディープキスが描かれていたりします。
そして人の愛情表現でもあるキスという行為を・・・ここが重要です。
「キスの意味を毎回変えている」
のです。
だからただのエロいシーンの繋がり、ではありません。
それも決して愛情、としてのキスじゃないシーンもたくさん描かれます。
迷っているキス、心の距離が遠いキス、無論以心伝心のキスシーンもありますが相手を攻撃する目的のキスも描かれたりしています。
水沢まつりと芽衣が対峙したときのキスシーン、これはまさに攻撃です。
そんな意味深なキスシーンがいちいち見ている人の感覚にグサグサと刺さってきます。
そりゃキスシーンですから。ドキッとします。日常ではありません。
そんな非日常的な表現に意味合いを持たせて訴求しているのがこの作品の最大の特徴です。
これが面白い。
そして本来愛情を表す行為であるキスですが、全くもってその目的通りに使われていないのも特筆に値します。
必ず違う意味が存在します。
その意味とは単なる愛情では無かったりします。矛盾をかませてあったりします。
キスをすれば相手に“好き”という意思を伝えることになっていない、ではなんだったのか、今の口づけは・・・
そんなことを見ている人に感じさせてくれます。
お話自体は柚子と芽衣が家族として、姉妹として、そして女同士として、更に人間同士として互いの感情を育むものです。
よくあるお話しではあります。
そこにエッセンスとしてキスという非日常を入れて誇張して表現しているのがこの作品です。
しかもエッチじゃなくて、変態性行為じゃなくて、キス止まりです。
これって現実的にありそうな、リアリティも感じさせてくれます。
けっこう仲の良くなりすぎた女子がやらかしそうだとは思われませんでしょうか。
キスくらいしてんじゃない?と下世話な中年は思ってしまいますし、妄想力豊かな中学生男子でもそう感じることではないでしょうか。
何気にリアリティもあるし、キスだけならば大して生臭くもならない、重くなく表現出来る、とても便利な人の普遍性でもあります。
でも非日常行為であるが故にパンチがある。
このようにシナリオの要素にエロがあると無いのとでは与える影響力に大きな差が生まれるのです。
エロくしなさい、という意味ではありません。
エロの要素があるとこんな効果も期待できるよ、ということをこの「citrus」で感じることが出来るのですね。
まさに矛盾の典型が簡単に描けてしまうのです。
やっている事と考えていること、感じている事との“違い”・・・。
これが矛盾であり、矛盾があって人は考え葛藤を始めるのです。
何も無ければ、やっぱり何も無いままですよね。
前述したように、愛情にしてもその他の感情にしても相手に伝えるには“行動”として出力しなければ絶対に伝わりません。
だから伝えたいのであれば何らかの行動を伴わなければ、それは伝える事になっていないのです。
思っているだけでは感情は伝わらないのです。
行動、動詞が必須です。何か行為として動かなければなりません。
でもその行為と思考がもし違っていたとしたら、そこにはどんな意味が隠されているのでしょうか・・・
その意味を感じられたときに人の心は動き出すのです。
これが“感動”の仕組みなのですね。