異世界食堂|シナリオスキル
今回のお題は
「異世界食堂」から読み解くテーマとしての食とハブ、です。
ハブ、とは蛇のことではありません。
自転車の車輪を思い浮かべて下さい。
丸い車輪の中心にあるのがハブと呼ばれる部品です。
ハブからはいくつものスポークが放射状に張り巡らされていてリムとタイヤに繋がり車輪を回します。
ハブにはエネルギーが集められて伝達します。
この構造はお話しの構造にとても似ていて、しかも登場人物の構図によく例えられます。
なぜなら、お話しには人の集まるハブというものがなければそれこそ“お話にならない”からです。
どんなお話にも登場するキャラクターが人であれ動物であれ、なんであれ有機的にアクションする者であれば何らかのハブに集まるようになります。
何らか、とはお話しにもよりますが場所だったり、空間だったり、それこそ拡大解釈して思想思考だったり、記憶だったり・・・
学生なら学校だし、宗教なら教会だったり思想だったりしますよね。
有形無形に関わらずハブがあるのです。
登場人物はハブに向かい、ハブの中で活動するようになります。
それはシナリオ的にいえば「柱」になります。
「柱」とは場所指定ですが、この場所が登場人物の集まる所=ハブとなります。
登場人物の活動する舞台を指定するのが「柱」なので必ずしもハブという意味とイコールである必要はありません。
シーンによっては人の集まらない場合もあるでしょう。
ですが、少なくとも複数の人物がアクションする舞台とは、人が集まる以上ハブということになります。
集まる、そう、スポーク(要素)が集まっている所という意味で“ハブ”になるのです。
シナリオで一発目に書く柱、それはただの場所ではありません。
ハブである要素があって一発目に書くべき必要性が生まれます。
今回の「異世界食堂」はその“ハブ”となる要素をとても簡潔に表されているので引用してみました。
ま、私がこんな小難しく理屈を説明しなくとも、誰しもシナリオを書こう、お話しを作ろうとしたときには必ず考えることでもあります。
「舞台はどこにしようか」と。
すっごくカンタンに言えば魅力あるキャラクターを想像出来たとして、さて、どこで活躍させようかと考えたときに必ずぶち当たる課題でもあります。
どこで活躍させようか、と考えると必然的に場所を考えることになるはずです。
その時にこのハブという概念は外せません。テーマにも直結します。
つまりは集まれる場所です。
これを決めないと人に聞かせるお話として体を成しません。
さて、
「異世界食堂」は犬塚惇平さんのラノベ原作モノです。
小説投稿サイト“小説家になろう”で連載されています。
アニメ版は2017年に公開されました。
監督、シリーズ構成は神保昌登さんです。
神保監督はよくシルバーリンク系で活躍されています。
アニメーター出でありながら演出、コンテもこなせるマルチな監督さんです。
だからかもしれませんがキャラクターもとても魅力的に可愛く描かれています。
やっぱりアニメは画が良くなければダメですね、とりあえず画が良くなければ「見てみようか」という気になりません。
残念ながらシナリオはその次になってしまいますw
この「異世界食堂」のテーマとはタイトル通り「食」です。
もうそのままドストレートなタイトルになっています。
キャラクターの集まる場所とは食堂であり、集まるキャラクターとは異世界の住人です。
とてもシンプルでよろしい。
人にしても、ヒロインのアレッタのような魔物にしても、生きるために食物を口にする行為とは生物の共通した行動です。
そしてこの食には善し悪しが感情に大きく関わっています。
“おいしい”は○で、“まずい”は×ですよね。
この普遍性を価値観の違うフィクションの異世界にも適用しています。
これにはリアリティがあります。
我々の住む日本って食べ物がとても美味しいですよね。
これって外国に行ったことある人は本気で感じる常識です。
私は個人的にイギリスにしか行ったことないのですがイギリス飯って美味しくないのですよ、マジで。
当のイギリス人にしても「好きな食べ物はなに?」と問えば「カレー」とかいいます。
外国に行ったことのある人のお話を聞いてもそう言います。
わざわざ高い旅費を払って違う価値観の外国に行っても結局食べるものは日本食だったりします。
だから不味い食べ物ではドラマになりません、×なのです。
そんなリアリティを異世界に模して写しています。
異世界よりも異世界食堂で出される食事の方が秀でています。
舞台である“ねこや食堂”は日本の洋食屋を呈しています。
それでいて洋食に留まらず和食やスイーツも、お酒も提供します。
美味しい食事が出来る日本の食堂をキャラクターの集まる要素=ハブに設定しています。
このように“ハブ”の要素が充実していると集まるキャラクターの強力な理由付けになります。
「どうしても行きたい場所」となります。
美味しいものを腹一杯食べる、とは生き物共通した最高の喜びに繋がります。
これがこのお話の共通性になり、感情移入出来る要素となります。
料理が不味けりゃ不味いで上手くするための変化も考えられますがこの作品のテーマとは異なります。
お気づきかもしれませんが、そうなんです、作品のテーマとこの“ハブ”の要素とは密接に関係しているのです。
ぶっちゃけテーマそのものがハブである要素になる、といっても過言ではありません。
そんなことをシンプルに語ってくれているのがこの「異世界食堂」です。
学問的に「柱」の説明を初めて聞くとなんだか地味な感じがします。
「場所かぁ〜、どこでもいいんだけど」なんてよく思ったものです。
でも重要だからこそシナリオでは一発目に指定します。それだけの意味があるのですね。
申したとおり、テーマに直接関わって来ますので手が抜けません。
大事なテーマを提示するところを指定するのが本来の「柱」の意味です。
そしてなにより「食」がテーマになっているとすると、キャラクターの個性を「食」の行為そのものだけで表現出来るほど付加価値の高い演出が出来るので単純に片付けられません。
ただ食べて、ただ美味しい、だけではもったいないのですね。
ねこや食堂に集まる異世界の住人は、やっぱりキャラにあったメニューを好んで注文します。
質実剛健なキャラにはガッツのあるメニューであり、可憐なキャラにはスイーツを好む、などの性格に応じた設定と演出がなされています。
好むメニューはそれぞれですが共通する価値観とは「美味しいものを腹一杯食べる」という一点に着地します。
それを客だけでなく従業員でもあるアレッタやクロにも適用して美味しいものを食べる幸せを描いています。
ただ、ただですよ、残念ながら映像では匂いや香りや味といったものはなかなか表現しにくいのです。
伝える術がないのです。
見る、聞く、しか伝えられません。
だから食をテーマにしてもなかなか伝わらないのです。
でもでも、食とは人の普遍性に深く関わっている現実がありますので避けて通れない側面もあります。
しかもアニメでは食べ物の描画だって正確に、美味しそうに描くことがとても難しい。
それでも果敢に挑んで欲しいテーマが「食」であります。
まあ、ワイドショーの食レポみたいな長ゼリフになったりしますが、この表現手法については一考の余地があると思いますし、何か画期的な比喩表現でも発案できれば革命が起きるのではないでしょうか。
それくらい「食」には破壊力があるのです。
私たちは、たまたまご飯の美味しい国に住んでいます。そしてたまたまアニメが発達した国で優れた作品を日本語で鑑賞できる環境にいます。
それは異世界では常識ではなく“価値”になるのですね。
その“価値”を、形を変えてシナリオに落とし込めればそれが“面白い”に繋がるのです。
「食」とは人の備わる欲の中でも最強です。
特に食とコミュニケーションの融合は人に幸福感を与えてくれます。
異世界食堂では各エピソードがメニュー別で描かれていますが、ビーフシチューの回を見れば、ビーフシチューが食べたくなります。
とても影響力があるのが食なんですね。
テーマで人の幸せを描くならぜひ「食」の要素を入れたいものであると・・・
この「異世界食堂」を見てみて再確認した次第であります。