ネト充のススメ|シナリオスキル
今回のお題は
「ネト充のススメ」から読み解くストーリーインストーリーの魅力、です。
けっこう地味でマイナーな作品です、ネト充って。
でも見てみるととても面白く人の心情の本質が描かれています。
黒曜燐(こくようりん)さんのマンガ原作で、comicoというマンガ配信アプリに連載されていた大人の恋愛モノです。
アニメ版は2017年に公開されました。
監督は柳沼和良さんでシリーズ構成はふでやすかずゆきさんです。
アニメ作品で大人の物語ってあんまりない気がします。
少ないわけではありませんが圧倒的に学園モノなど若い人物が中心になるお話しが台頭しています。
それはやはり、アニメが元々子供向けのメディアだったという歴史が今に至るのでしょう。
でも本当は学生よりも社会人の方が圧倒的に拡張性に長けている、はずなのです。
ですから学生モノにしても登場するキャラクターにはおよそ年齢とは似つかわしくない価値観が与えられたりしています。
それは学生では現実的に経験値が足りていない部分を補う為のフィクションですが、だったらはじめから大人でいていいんじゃね、とか思ったりします。
もっと大人の登場する作品があっても面白いのではないでしょうか。
まあ、高校生とかであれば自由に活動できる立場ではあるし、デザイン的にも可愛い、カッコいいキャラにしやすいのはあるでしょう。
今回の「ネト充のススメ」ではゲームという遊びを通じて大人の恋愛劇が描かれています。
大人であれば拡張性にすぐれている反面、子供や学生みたいにくくりや縛り、まとまりがないので何らかのカテゴライズが必要になります。
学生ならば学校単位、部活単位とかでカテゴライズ出来る環境がデフォルトで備わっていますが社会人ならば、確かに会社などのくくりはあるものの物語として描くにはちょっと広義なものであります。
もっと細分化しないと人の心情を描くにも広すぎるから反映されにくくなります。
単なる大人では自由すぎるので何か、どこかに所属してカテゴライズすれば、その中で個別の心情を表す事が可能になります。
「ネト充」の構造的にはストーリーインストーリーになっています。
つまり大人の社会人のストーリーにゲームコミュニティのストーリーが内包されています。
そのゲームの世界で出会いや感動やコミュニケーションが描かれていて、そこでの出来事がリアルに反映するといった形になっています。
さて、
小難しい理屈はこれくらいにして、「ネト充のススメ」ではどうなっているのでしょうか。
ヒロインは盛岡森子、通称“もりもりちゃん”です。
もりもりちゃんは三十路のOLでしたが脱サラしてニートになりました。
相手役の桜井優太は商社マンでエリートチックなイケメンです。
このふたりはファンタジー系オンラインRPGゲーム“Fruits de Mer(フリドメール)”の中で出会いました。
正確には作られたゲームキャラクター同士が出会いました。
その傀儡を通じて心を通わせるのですが、ここで気付いて貰いたいのがストーリーの中にストーリーを入れて自分を重ね合わせるとそれ自体・・・
「間接表現になる」というところです。
というか、間接でしか表現出来ない状況になるのです。
間接表現になると本音と建て前に然るべき差が生じます。
そこにリアクションやら気持ちと行動の矛盾やらの入り込む余地が生じるのです
もりもりちゃんの傀儡キャラが男性イケメンの林で、優太の傀儡キャラは可愛い魔法使いのリリィになっています。
お互い男女入れ替わったゲームキャラにて物語が進みます。
性別さえ隠して振る舞うのでゲーム内では総じて比喩表現に終始せざるを得なくなります。
そしてそのやり取りにはゲーム内での建前とパソコンの前に座っている当事者の本音が同時に表せるのですね。
これが実に面白い。
ストーリーインストーリーってとても整合性の取れた優れた手法なのです。
また“偶然”というフィクションで実際のリアルでももりもりちゃんと優太は出会いを果たします。
これもゲーム同様ファンタジーチックで魅力があります。
「もしこうなったらいいな〜」的な、憧れ性のある展開も兼ね備えていたりします。
さらにさらに、終盤ではこの出会いにも前日譚が設定されていて、それはまさにストーリーインストーリーインストーリー・・・みたいな構造になっています。
「ネト充のススメ」の一連の物語から読み取れるのは“運命”ではないでしょうか。
もりもりちゃんはOLで商社に勤めていたときにいろいろ傷つきました。
あまりその当時の描写は詳しく示されていませんが、いろいろあって会社を辞めてニートになりました。
その傷ついた心を癒やす場がオンラインゲームというくくり=世界で、自分を隠しても人とのコミュニケーションが取れる居心地のいい場所となりました。
この表現をガチのリアルだけで表そうとしたらかなり頭を絞らなければ、かなりの演出力でもない限り実現化できません。
それが物語の中にもうひとつ物語を挿入することでシンプルに整合性が取れてしまいます。
このようにストーリーインストーリーの構成にすると感情移入しやすくしかもシンプルに、またリアクションなどの工夫がしやすく展開を考えることが出来るのですね。
最後にもうひとつ。
先ほど高校生では価値観が備わっていないのでフィクションとして年齢と似つかわしくない価値観を与えられている、と申しました。
この「ネト充のススメ」ではそのロジックが逆になっています。
もりもりちゃんは三十路にも関わらずまるで処女のような人物設定がなされています。
やっぱ、キャラクターってギャップがあった方が魅力出るのですね。
それがとても可愛く見えるのです。
私がモリモリちゃんの声優である能登麻美子さんファンということもあるかと思いますが、その魅力的な声も相まって地味ですがこの作品「ネト充のススメ」は良く出来ていると感じました。
ストーリーインストーリーの構成は優れていますが、ただし書こうとしたら手間が掛かります。
世界観の中にもうひとつ世界観を作らなければなりません。
でも確実に面白い作品が書けるのであれば、その手間は十分価値があるのではないでしょうか。