Princess Principal|シナリオスキル
今回のお題は
「Princess Principal」から読み解く組み合わせの妙、です。
プリンセス・プリンシパル、通称「プリプリ」は2017年に発表されたオリジナルアニメです。
これがマジで面白い作品なのです。
監督は演出畑の橘正紀さん、シリーズ構成は気鋭の大河内一楼さんです。
スパイアクションモノでありますが、特筆すべきは「スチームパンク」モノでもあります。
“スチームパンク”とは19世紀イギリスの舞台設定に蒸気機関技術などの機械文明が発達した架空の世界観を載せてあるサイエンスフィクションであります。
詳しくはググって頂きたいのですが、アニメファンなら見覚えのある世界観です。
主な動力に蒸気が用いられていて、時代設定が日本で言えば江戸時代から明治時代だったりします。
“スチームボーイ”とか、“甲鉄城のカバネリ”とか、“サクラ大戦”なんかもスチームパンクの要素がありますね。
ノスタルジックさと現代の発達した技術文化の組み合わせで描かれています。
古いものと新しいものがスチームパンクを用いることでつじつまが整えられているのです。
とても優れたファンタジーフィクション手法のひとつがスチームパンクなのです。
今回のプリプリはスチームパンクをモチーフとしてスパイ要素を組み合わせて描かれています。
お話しの形としては二人のそっくりな女の子の友情モノです。
ヒロインの片方は孤児のアンジェです。
アンジェは凄腕のスパイとして共和国側のスパイ組織“コントロール”に所属しています。
もう片方のヒロインは王国側のプリンセスであるシャーロット妃です。
二人は幼少の頃、偶然出会い意気投合します。
そっくりなので入れ替わっても他人は分かりません。
あるとき外の世界を見てみたかったシャーロットはアンジェに頼んで入れ替わってもらいます。
その時、革命が勃発して元に戻ることが出来なくなりました。
王妃であるシャーロットは孤児として、孤児のアンジェはプリンセスとして生きていかねばならなくなりました。
で、物語はそんな二人が大人になって再会を果たすあたりから始まります。
劇中ではアンジェはスパイ“A”として、シャーロット妃は“プリンセス”と呼ばれています。
プリンセスはアンジェと二人きりの時に限りアンジェのことを「シャーロット」と本名で呼びます。
アンジェはプリンセスを迎るために優秀なスパイになり“チェンジリング作戦”を上層部に提案し認めさせプリンセスと再会を果たしました。
再会したアンジェはプリンセスに“一緒に逃げよう”と言いますがプリンセスは革命により分断された国を変える為に女王になることをアンジェに伝えます。
逃げない二人は行動を共にします。
かくして共和国側のスパイ組織に王国のプリンセスが加わって陰謀を図るものと諜報戦を繰り広げるわけですが・・・
このようにヒロインの背景を紹介するだけでも複雑で興味をそそられます。
あまり上手く説明出来なくてスミマセン。詳しくはレンタルDVDを見てみてください。
他にもこの作品からはいろんなインスピレーションを受けることが出来ます。
特に要素の組み合わせは絶妙で、さすが演出、コンテ専門家の監督と気鋭の脚本家が描いただけのことはあります。
しかも原作モノと違い、オリジナルはアニメの拡張性を遺憾なく発揮しています。
アニメ作品において、原作モノとオリジナルモノとの差異は、話すと長くなるのでまたの機会にしますが、
組み合わせで言えばこの作品には他にもいろんな要素が組み合わさって描かれていて、そのバランスも秀逸です。
このような整合性はなかなか絵描き出身の監督さんには出来ません。
良く出来ているので分解のしがいがあります。
スチームパンクはただの世界観なのでそこでどのような物語にするのか、というところがオリジナル作品ならば監督や脚本家、演出家、コンテマンの裁量で適います。
腕の見せ所であります。
優れた世界観にいろんな要素が組み合わされていますが、組み合わせの妙と思う部分をいくつか並べてみます。
まずは数奇な運命と偶然です。
アンジェとプリンセスは革命の混乱により入れ替わった状態で生き別れます。
これだけでも十分ドラマティックな展開が考えられそうですが、更に大人になってから再会するシチュエーションにスパイ要素が組み合わされています。
スパイ要素そのものにも組み合わせがなされていて、アンジェはスパイというよりどちらかというと怪盗ルパンのようなスタイルをしています。
マントをまとったりシルクハットを被っていたりして、そこから伝わるものとは“神出鬼没”さだったりします。
さらにアンジェの自称設定として嘘をつく異星人、「黒トカゲ星人」を名乗ります。
異星人という「嘘」をつくことで決して他人に本心を見せません。
この「嘘」というのがこの作品のキーワードになっています。
国家間のいざこざの原因も“ケイバーライト”という資源のよるものです。
現代のリアルでも有り得るいわゆる資源戦争の結果で多くの人たちがアンジェたちと同様生き別れになっています。
舞台となる架空のイギリスは王国側と共和国側と分断されていて大きな壁で仕切られています。
その両国間でスパイ活動が成立する設定なのですが、ここまで複雑にしてもまとめられるのは演出設計に長けているが故なのですね。
こんだけいろんな要素を盛り込んだら、素人ならば普通に空中分解します。
それでいて、アニメ独特の要素もちゃんと盛り込まれています。
プリンセスの付き人であるベアトリスの髪型はお団子ですし、プリンセスがアンジェたちのチーム“プリンシパル”に入る際、どのような関係になるのか尋ねられたアンジェは、
「黒トカゲ星の幼馴染み」と答えます。
スパイ活動の拠点をプリンセスの通う学校の部活としてあります。
アニメでは十八番の学園モノ的な要素も組み込まれていたりします。
さらにさらに、音楽も梶浦由記さんが手がけられていてスパイ独特の盛り上がりがあります。
画の色もいい。
特徴的なのがこの作品は各話時系列に沿って描かれていないのです。
サブタイトルにはcase○○(数字が入ります)としてエピソードが前後します。
これによりサブキャラクターなどの詳しい背景エピソードなどが描かれていたりするのですが、それも違和感がありません。
アニメ制作者がオリジナルで作るとここまで本格的なドラマが出来るという代表例みたいな作品です。
軽っちいラノベの比ではありません。だから現代の日本のアニメは素晴らしいと思うのであります。
私的に素敵な要素がありすぎて紹介するにあたり支離滅裂になってしまいましたが、
決して奇抜なものではなく、今までどこかで見たことのある要素を組み合わせることで素晴らしい相乗効果が発揮されている作品、それがプリンセス・プリンシパルなのです。
スパイ要素の元ネタは当然007ですし、スパイと言えばイギリスだし。
ちなみに“プリンシパル”とはバレエの用語だそうです。
“プリマ”とか“エトワール”というのは単人称、最高位の個人を指す言葉で、“プリンシパル”とはプリマを含む最上位のグループを指すそうです。