赤髪の白雪姫|シナリオスキル
今回のお題は
「赤髪の白雪姫」から読み解く究極のイメージキャラクター、です。
原作は漫画家のあきづき空太さんです。“そらた”さんですが女流作家さんです。
アニメ版は2015年から2016年にかけて放映されました。
「花咲くいろは」の安藤真裕監督、制作は「エウレカセブン」のBONS、シリーズ構成は赤尾でこさんです。
赤尾でこさんは歌手としても活躍されている三重野瞳さんです。
私は脚本家としてしか知りませんがホント、マルチな人っていますよね。
赤尾さんのホンの印象は女性向け、子供向けが得意な感じがします。
やわらかい感じですね。
そんな印象にぴったりなのが今回紹介する「赤髪の白雪姫」です。
ふと、ディズニーの最初の大作である“白雪姫”ってどんなお話しだったか、忘れていました。
子供の頃見たっきりで覚えていません、ガラスの靴でしたっけ?
そんなわけで改めて調べてみました。
プロットもどきを抽出してみると・・・
- 性格の悪い女王の城で下働きさせられている白雪姫、
- 「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだ〜れ?」
- 「白雪」と答えた鏡にキレる、
- 白雪を殺すよう狩人に命ずるが難を逃れる白雪、森で迷ってしまう。
- 7人の小人、「ハイホー」
- 老婆に化けた女王がくれた毒リンゴを食べて死んでしまう白雪、
- 王子に口づけされて生き返る、
- 王子と一緒になって幸せに暮らすとさ、
こんな感じでしょうか。
この中で実際に「赤髪の白雪姫」劇中に引用されているのは“毒リンゴ”くらいであと、王子様と一緒になることくらいです。
その他の要素は見事に踏襲していません。
タイトルだけ見ればディズニーの白雪姫のリメイクかな?とか思っていましたが全くの別物です。
さて、
では、どうして白雪姫を語ったのでしょうか。
それはパブリックイメージを利用したからです。
みんな知っている“白雪姫”とはどんな女性なのでしょうか。
その具体像をあきづき空太さん独自に解釈した形がこの作品だと思われます。
ヒロインの白雪は薬の専門家、薬剤師です。
そして自立心旺盛な性格設定になっています。
彼女のディテールとして、自立心、前向きさ、ひたむきさ、まっすぐな信念を持っている、といった印象を受けます。
ほとんど理想像ではありますが、「白雪姫ってどんな女性なのか」の提示でもあります。
その解釈において、原作から離れた形でお話しを作っています。
踏襲しないで他のエッセンスを取り入れて相手役のゼン王子とのラブストーリーにしてあります。
だから老婆も出てこなければ小人も出てきません。
白雪は一度も死んだりしません、無論王子に口づけされて生き返りません。
舞台は中世ヨーロッパ諸国チックですが至るところに日本文化の要素も入れられています。
挨拶で頭を下げるところ、ゼン王子の側近に日本人名がある事など、やはり日本の少女漫画原作である事から親近感も演出されています。
ここで質問します。
「赤髪の白雪姫」というネーミングと、
「赤髪のマチ子さん」というネーミングを比べてみて、どちらが印象深いでしょうか?
断然白雪姫の方のイメージがいいと思われます。
とても品のいい印象すら受けてしまいます。
でも本編中では白雪姫の原作ストーリー仕立てにはなっていません。
これがイメージ、印象の作り方です。
特にパブリックイメージ、つまり誰でも知っている有名なキャラクターを引用すると、例えお話の内容が原作と乖離していてもイメージだけ最後まで付いてきます。
やり方は極簡単なもので、ただ名前を付けるだけです。
それだけでキャラクターのイメージが決まってしまいます。
これは大いにマネできます。
だって名前を付けるだけですから誰でもできます。
キャラクターの性格設定を考える場合、イメージキャラクターを基に考えるやり方があります。
そのイメージに沿った性格や行動、癖といったものをシナリオに反映させますが、そんなまどろっこしいことしないで名前を付けるだけでほとんど全ての性格が決まってしまいます。
それが有名であるほど多くの人に訴求が出来ます。
そんな仕組みをこの作品は応用しています。
ただ、それだけでは面白くもならない、だから他の要素を盛り込んでいます。
ヒロインは“リンゴのような赤髪”をしている、これが最大の特徴付けになっています。
ディズニーの白雪姫はグリム童話ですが、舞台こそ昔のヨーロッパであるものの現代劇にしている、
徹底的にヒロインの個性を前面に出している、
明るい未来に向かうストーリーテラー、
立場の違う者同士の恋愛、などなど。
言うなれば原作に縛られていません。
自由な女性像を思いっきり描かれています。
この作品の発想は、だからあなたも何か作品を書く場合に応用が出来るし、しかもやりやすいはずです。
単純に「あなただったら白雪姫をどう解釈してキャラクターを描くのか」それがそのままオリジナルにもなります。
白雪姫を思い出して、なんとなくでもイメージがあるはずです。それをそのまま描写します。
原作のエッセンスは多少あればいいだけです。全てマネは出来ません、パクりになってしまいます。
欲しいのは人に伝わる“印象”です。
全くの独自イメージからキャラクターを描いてみても説得力がありません。だからパブリックイメージを利用するのです。
この「赤髪の白雪姫」は別に白雪姫を語らずとも十分キャラクターの魅力が伝わってくる作品になっています。
それでもパブリックイメージがあるのとないのとでは結果が変わります。
キャライメージは、できれば単純かつスピーディーに伝わった方がいい。
特に導入部では助けになるはずです。
キャラクターに重みが出せます。
とてもカンタンで分かりやすい方法なのでぜひお試しあれ。
「赤髪の白雪姫」はとてもデザインの優れた作品でもあります。
キャラデザも然りですが衣装デザインが印象的です。
白雪姫はお姫様なのだから、ドレスが似合わないといけません。
アイキャッチの幾何学模様であったり、美術(アニメでは背景のことです)もきれいに描かれています。
このあたりの繊細さはさすが少女漫画原作ですね。
エンディングテーマもワルツ調から曲が始まります。
非常にイメージと合っている。
白雪姫という3文字のネーミングにはこのような楽曲のイメージすら表現できるのです。