アニメシナリオ脚本スキルBlog|シナリオ教室の劣等生

凪のあすから|シナリオスキル

今回のお題は

 

「凪のあすから」から読み解く人の矛盾の作り方、です。

 

次のコラムを書こうとしていた時に篠原俊哉監督の新作「色づく世界の明日から」を見かけました。

 

テレビで中間話のひとつしか見てないのでこの場ではまだ紹介出来ませんが、とても印象深い描写が見て取れました。

 

そんなわけで篠原監督と言えば今回紹介するP.A.WORKSの「凪のあすから」を思い出したのでご紹介します。

 

2013年に放映されたオリジナルアニメです。

 

篠原俊哉監督、シリーズ構成は岡田麿里さんです。

 

制作は富山県のご当地アニメ制作会社のP.A.WORKS、キャラ原案はブリキさん、キャラデザは石井百合子さんです。

 

篠原監督は演出畑からのアニメ監督さんで、岡田麿里さんはよくP.A.WORKSから出世作を出されていて、お二人とも縁が深いようです。

 

オリジナルなのでほとんどこのお二人が書かれたと思われる作品です。

 

だから、なのかも知れませんがヒロインの 向井戸まなか はなんとなく「あの花」のめんまのイメージに似通っています。

 

さて、

 

人の矛盾を書こうとする場合に、では何と何を違えればいいのか、悩みます。

 

“矛盾”ですから何かと何かがチグハグでなければなりません。

 

整合性が狂っている状態です。

 

それが人たる特徴であり、当然“人”由来でなければなりません。

 

極簡単な指標は私たちが普段書いている原稿用紙にヒントがあります。

 

原稿用紙に何を書きますか?

 

そう、柱とト書きとセリフですよね。

 

シナリオにはこれ以外書けません。

 

この組み合わせに矛盾を作れる要素があります。

 

場所と行動と喋る事、この3つに普通じゃない状況を与えます。

 

3つで難しければ2つでも構いません。

 

柱とト書きでもいいですし、セリフと柱でも構いません。

 

ひとつの要素でも出来ますがとりあえず2つで“普通じゃない”とはどういう意味か、考えてみましょう。

 

柱とト書きでやってみます。

 

普通、葬儀場では演芸場みたいに笑いません。

 

普通、結婚式では辛くありません。

 

普通、会社ではサボりません、仕事をします。

 

こんな感じで本来の目的に応じて場所のイメージがあると思います。

 

これを狂わせます。

 

ただ狂わせるのではなくして、狂わせる要素を考えます。

 

その要素とは人の意識です。

 

理由や事情、訳といったものを原因として、あえてそぐわない行動をト書きにします。

 

そうすると人間らしい矛盾が出来上がります。

 

葬儀場で故人を偲んで、あえて故人が好んだ明るい雰囲気にするためにみんなで笑います。

 

本来結婚したい人と別の人と結婚しなければならない事情があって祝福される結婚式が辛くなります。

 

仕事に不満があってサボります。

 

あまり難しく考えないで「普通じゃない」状況と「その訳」を考えるだけで矛盾を作れてしまいます。

 

その演出の是非はともかく違えてしまえば矛盾になります。

 

「凪のあすから」の1シーンで、もう一段深い描写があります。

 

それはひとつの要素だけ、この場合はト書きだけで矛盾を演出して心情を表現するというものです。

 

【第6話 巴日のむこうAパートより】

 

主人公の先島光は学校のプールでライバル視している木原紡と水泳で競走します。

 

その最中、光は感情が祟って怪我をしてしまいますが、その時一目散に駆けつけたのがヒロインの向井戸まなかでした。

 

光はまなかに想いを寄せていますが、まなかにその意識はありません。まなかは素の意識として心配したから直ちにプールに飛び込みました。

 

対してサブヒロインの比良平ちさきは光に想いを寄せているにも関わらずまなかのように行動する事が出来ませんでした。

 

普通、誰かが怪我をしたら一番心配して一番積極的に行動出来るのは好きな相手である人物、この場合ちさきになるでしょう。

 

それがちさきより恋愛感情の薄いまなかに追い越されてしまいました。

 

この矛盾によりまなかの性格やちさきの想いの類いが表せてしまいました。

 

ちさきの想いの類いとは、それは密かな想いです。

 

公明正大に恋心を表現出来ない事情がちさきにはあるのです。

 

まあ、本編中では当然セリフも絡みますがこのようにひとつの要素、ト書きだけでも矛盾が作れて、しかもかなり入り組んだ複数の感情を表現しています。

 

これってかなりの高等技術です。

 

ただ分解してみると、突発的な事象に対して人物それぞれの行動に「違い」を持たせると相関関係や感情を表す事が出来る、典型例だと思います。

 

このシーンは見ている人に感じさせたい個々の登場人物に応じて、つまりはキャラクターそれぞれの感情を同じシーンの中で複数の矛盾の組み合わせにより幾重にも重ねられて表されています。

 

光とまなかとちさきの感情がたったこの1シーンでまとまっています。

 

ちょっと難しく書きましたが、要するに「違いを見せろ」です。

 

同じにしてはいけません。

 

必ず違う様子を描きます。

 

光はまなかの気持ちを自分に引き寄せたいが為に紡と対決して、期待したものと真逆の結果を招きます。

 

まなかは、まなかのそのままの性格で真っ先に助けに行きました。

 

ちさきは自分の感情とうらはらでその時に素直に行動する事が出来なくて、それが出来たまなかとの差に気付き憂います。

 

他人との行動の違い、

 

思っている事とやっている事の違い、

 

期待することと結果の違い、

 

視点の違いその他もろもろ・・・

 

この違い、違っている様子を目に見える部分だけシナリオに書いて行きます。

 

あくまで見えるところだけ、そこだけ描写するのですね。

 

心情や感情は目に見えません。でも人は何らかの具体的なアクションで表に表します。

 

心情そのものズバリを書いてはいけません。それは小説などの地の文になります。シナリオには書けません。

 

根底にあるそのような感情や心情をどうやって見せるのか、それがシナリオの役割でもあります。

 

その為には“違い”で見せるしかありません。

 

違いとは“矛盾”です。

 

シナリオにおける矛盾の描写は必須です。

 

それこそ矛盾しか書いてはいけません。それくらいストーリーって矛盾の塊なのです。

 

だから普通のシーン、いつもと同じ、何気ないシーンにおいても何らかの矛盾=違いを見せることで伝わる“意味”を必ず持たせなくてはならないのです。

 

無駄なシーンとはそういった意味を含まないただの“普通”をそのまま書いてしまうことです。

 

もし前述の1シーンで光を助けに飛び込んだ人物がちさきだったならば、それは普通の行動であり面白くもないし、シナリオのエピソードにするべきではありません。

 

何も出来なかった、ただ傍観するしかなかったちさきの行動と彼女自身の感情に違いがあるからシーンとして描く事が出来るのですね。

 

「凪のあすから」を見てみると矛盾に次ぐ矛盾の連続です。

 

そうやって2クール26話もの長いお話になっています。

 

短い短編であろうと、全26話にもわたる長編だろうとこの部分は変わりません。

 

いかに矛盾を通じて意味を伝えられるか、これが本質的なシナリオのアイデンティティなのです。

 

今回は「凪のあすから」の第1クールを基に考察しましたが、この後の第2クールでは、一言で言えば怒濤の展開になっています。

 

それこそストーリーボードで登場人物の年齢すら変えてしまっています。

 

何かを違えるとはどういう意味か、

 

この作品はとことん違いを見せつけて、見ている人の感情に訴えかけている秀作です。

 

脚本も岡田麿里さんはじめ横手美智子さん、吉野弘幸さん、根元歳三さん、西村ジュンジさんと、現代を代表するアニメ脚本家が携わっています。

 

P.A.WORKSはこの通り、品質面に妥協がないご当地アニメ屋さんなのです。

 

「凪のあすから」この作品のテーマは“変わるものと変わらないものの違い”と私は感じるのですが、あなたはどう思います?


【無料メルマガ】アニメから読み解くシナリオ脚本スキル

Udemyシナリオ入門レクチャー:動画で詳細解説!今なら90%Offクーポン発行中

超実践的シナリオ執筆道場

上位版シナリオ入門エクストラレクチャー執筆作業(テーマから完成まで)全12レクチャー¥2,500

あなたのシナリオを講評します:シーニャプロトンテールリヴィジョン

お問い合わせ、ご質問

トップへ戻る