アニメシナリオ脚本スキルBlog|シナリオ教室の劣等生

君に届け|シナリオスキル

今回のお題は

 

「君に届け」から読み解く変化の時間と対の表現、です。

 

椎名軽穂さんの漫画原作で恋愛学園モノです。

 

実写映画も公開されたそうですがアニメ版は2009年に放映されました。

 

監督は鏑木ひろさん、シリーズ構成は大ベテランで大御所の金春智子さんです。

 

脚本家金春智子さんについていくつか・・・

 

アニメの脚本家では昔から有名な方です。

 

いくつかエピソードを紹介しますと、

 

「うる星やつら」の映画版では監督の押井守とマジバトルした・・・

 

漫画家の高橋留美子さんとマブダチで同じく大の阪神ファン・・・

 

ホン読みで初稿が決定稿になる逸材、とか

 

もう大ベテランではありますがアニメファンなら金春智子さんを知らないとモグリ、です。

 

さて、

 

“君に届け”はご存じの方も多いと思いますが、ハッキリ言って少女漫画です。

 

私は男なので専門外的な領域なのですが、脚本家と声優推し(能登麻美子さん)で見てみたら男でも楽しめました。

 

女性の描く少女像が描かれています。

 

つまり女の人にしか描写出来ないような作りになっています。

 

男に女心を詳しく書け、と言われても迷う部分だと思われます。

 

アニメ第一期は主人公でヒロインの黒沼爽子(くろぬまさわこ)が高校に入学してからその年の大晦日までが描かれています。

 

それも2クール24話使っています。

 

爽子のキャラクター像はいわゆる“貞子”です。

 

リングのお化けの貞子です。

 

故に周りのクラスメイトからは“さわこ”と呼ばれずに「さだこ」と言われてしまいます。

 

彼女の雰囲気が元々そんな感じで、霊感があるとか見つめられると呪われるみたいな伝説がまとわりついています。

 

そんな誤解が周りを支配する爽子ですが、本人はいたって楽天的で純粋で、裏表のない女の子です。

 

スレンダーで長い黒髪はサラサラストレート、背も高くてAラインの服が似合う、そんな爽子は周りに気を遣いすぎてつい暗くなってしまいます。

 

“君に届け”はそんな爽子が周りとの関わりの中で変化していく様が描かれています。

 

その中で恋愛まで発展するお話です。

 

オープニングでは早風翔大との出会いから始まるので恋愛モノかと感じますが、どちらかというと学校の中での人間関係に焦点が当てられています。

 

恋愛関係では翔大とキスもしていないし、告白すらまともにしていません。

 

学校では誤解や葛藤や齟齬などに直面しますが、シナリオ的に見るべき所とは、

 

「しっかり時間を使っている」のです。

 

あまり展開を急ぎません。

 

かなりの時間、尺を割いて爽子や他のキャラクター達の感情表現にちゃんと使っています。

 

だから作品通してとてもスローペースなのです。

 

キャラクターの感情を伝えるには、描写力も必要ですが時間も必要です。

 

感情を伝えるためにはどうしたって時間が掛かるのです。

 

この“伝える”とはキャラクター同士でもそうですし、観客に対してもそうです。

 

また、この作品はやたらモノローグが多いというか、M中心に表現されています。

 

モノローグとは独白、独り言のことですが、特に考えていることだったり、心の声がモノローグで表されています。

 

シナリオスクールでこんなにMばっかり使ったシナリオを書いたら間違いなくダメ出しされます。

 

それでも何とかして伝えたい、という作者の意図が感じられます。

 

“君に届け”の“届け”とはキャラクターの想いという意味の他にも観客においても届かせようとしています。

 

絵や描写やMといった表現をじっくり時間を使って伝えています。

 

人に何かを伝えるには時間が掛かるのです。

 

それをはしょってはいけませんね。

 

もう一つシナリオ的に見るところは変化を描く上で感情表現をひとつに限定していません。

 

感情の表現と言えば喜怒哀楽、なんて教わります。

 

これも実は正確ではありません。

 

人の感情というものはこんな簡単な4つの文言だけで全て完結するほど単純ではありません。

 

例えばこの作品で言えば・・・

 

爽子は泣き虫キャラです。

 

何かにつけて涙を流します。

 

それは自分の感情や意思が人に伝わるだけでも泣いてしまいます。

 

嬉しいときは喜怒哀楽に当てはめれば笑います、喜びます。

 

でも爽子は泣いてしまいます。

 

泣くという感情って普通は哀でしょう。

 

でも爽子は喜でも楽でもその感情表現をしてしまいます。

 

逆に本当に自分が悲しいときにはあまり泣きません。

 

このあたり、爽子の強さだったり実直さというものが表されています。

 

ひとつの感情に複数の表現がなされている、これがこの作品の面白いところなのです。

 

対の表現は、実は同じ感情で使えます。

 

怒ったときに表す感情とは怒りだけではなく、笑うことや泣くことでも表せるのです。

 

そして表された感情が本当の感情と乖離しているとシナリオは確実に面白くなります。

 

シナリオを創作する時にキャラクターの感情を決めたのなら、その感情と真反対の表現をさせてみて下さい。

 

シナリオとは意味を伝えるモノです。

 

表されたもの、そのものの意味とは違うんですね。

 

意味を感じさせなければならないので、あえて違う表現をキャラクターはします。

 

爽子の場合は泣いてしまうことがアイデンティティです。

 

だから何かにつけて涙を流してしまうのです。

 

そんな表現は女性作家ならでは、と思います。

 

男はデフォルトでそんな繊細さはありませんので。

 

結局最初は呪われキャラの爽子が「貞子が笑うと福が来る」になるまで変化していきます。

 

その変化には時間を使ってじっくり描写されています。

 

更に爽子の泣き虫が涙を流すことによっていろんな意味を我々に伝えてくれます。

 

“君に届け”からはこんなことを感じさせてくれるのです。


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