楽園追放-Expelled from Paradaise-|シナリオスキル
今回のお題は
「楽園追放-Expelled from Paradaise-」から読み解くバディものの王道、です。
2014年に公開されたアニメ映画でSFファンタジーバディモノです。
東映アニメーションとニトロプラスのオリジナル映画で水島精二監督、脚本は虚淵玄さんです。
グラフィニカ製のセルライクフルCGアニメーションで発色の美しい作品です。
公開時にはヒロインであるアンジェラのデザインがエロ可愛いくて話題になりました。
未来の人類が主たる生存の場で“楽園”と称される仮想世界のディーバ。
システム保安要員であるヒロインのアンジェラ・バルザックは、ディーバにハッキングを仕掛けてくるフロンティア・セッターを探すため、リアルワールドに降り立ちます。
相棒のディンゴとともに行動を共にしますが、フロンティアセッターを介して世界の真実を知った末にディーバから追放される、というお話。
お話し自体はSFです。
ディーバの未来世界と、取り残されたリアルワールドの世界観と二つ描かれています。
進化した人類のアンジェラと旧態依然のディンゴとの組み合わせでお話しが進みます。
シナリオ的に見るところはバディ関係の心の距離です。
このあたりは王道的に描かれています。
脚本が虚淵玄さんなので、もっとドラスティックに書かれていると思いきや、意外にも普通に、常識的に書かれていました。
虚淵ファンの人はちょっとおとなしく感じた事でしょう。
でもバディものの王道はこういった誰かと誰かが巡り会ってから心情を重ねていく過程を描く形が代表的ですし、バディモノが面白いとされる由縁だと思われます。
この作品は映画のオリジナルなので短い尺でしか見せられないこともあり、二人の関係はあまりディープな部分まで描かれていません。
もし、シリーズ物で12話まで作るなら二人お互いぶつかったり離れたり、くっついたりを繰り返します。
そして本当の相棒、バディとなります。
アニメ素材的にシリーズ物にしても耐えられるクオリティなので映画だけではもったいない感がありますが、
それでも二人の心の距離が近づく様はしっかり描かれています。
特に新世界にプライドを持つアンジェラの方が旧人類の価値観に気がついて近づいて行くのですが、
最初は高圧的だったアンジェラの心情が最後のエンドロールの挿絵では二人が大笑いしている描写で締めくくられています。
意外とこの作品はこういった心の距離的な描写がなされていて、
アンジェラとディンゴの他にも騒動の発端でもあるフロンティア・セッターまでもが機械のくせに心を近づけて共感しています。
この作品のテーマなんでしょう。
人物は一人では何も発展しません。
これはリアルの我々だってそうです。
ひとりではお話し物語になかなかなりにくい。
でも他にもう一人いればお話しが始まります。
たくさん登場人物がいれば拡張はしますが、その分総じて希薄にもなります。
それは物理的なものでしょうがありません。
だから、映画の尺ではあまり大勢の人物を設定してしまうと誰が主役なのか、誰がヒロインなのか、誰がサブなのか、人を増やした分だけ薄まってしまいます。
この作品の主要キャストはたった3人だけです。
だから際立ちます。
落ち着いてバディものが描けるのです。
たくさんの人物設定で相乗効果を狙う手法もありますが、やっぱりバディの絆をしっかり描くならこの作品のように絞り込むべきです。
お話しそのものは至って地味に見えました。
でもアニメってそのあたり喚起する余地がたくさんあります。
絵がきれい、アンジェラが可愛い、スペースアクションが秀逸、バトルが躍動的、
どれもリアル映像では実現が難しいはずです。
映像もこれからアニメの主流となるであろうセルライクフルCGアニメーションです。
もうすぐリミテッドアニメの時代が終わるかもしれませんね。
そんな最先端な表現手法でも、この作品のように描かれていることとは極単純な人の絆であります。
進化した人類のアンジェラと取り残された人類のディンゴ
この新旧の組み合わせはシナリオ的に拡張が出来る要素が詰まっています。
人は例えデータであっても生身であってもその存在の普遍性は変わりありません。
どんな新旧の組み合わせを創作されますか?
楽園追放はこのようなハイブリッドも感じさせてくれるのです。