アニメシナリオ脚本スキルBlog|シナリオ教室の劣等生

坂道のアポロン|シナリオスキル

今回のお題は

 

「坂道のアポロン」から読み解くモチーフとは何か、です。

 

けっこう有名な作品です。

 

児玉ユキさんの原作物でアニメ版は2012年放映されました。

 

渡辺信一郎監督、脚本は加藤綾子さん、柿原優子さんです。

 

青春音楽物、ジャズものですが音楽は菅野よう子さんです。

 

この菅野よう子さんがこの作品の要になっています。

 

原作は漫画なので原作者があらかじめ音楽設定をしていたとしても、アニメ化で菅野よう子さんを起用する想定はしていなかったことでしょう。

 

でもこの坂道のアポロンはハッキリ言って菅野よう子さんの音楽に魅力があります。

 

菅野よう子さん無くしてはここまで完成度の高い作品にはならなかった、それくらいの破壊力を感じます。

 

シナリオもいいのですが音楽の方に軍配が上がりそうです。

 

なぜにそんな音楽が品質を左右するのか、

 

それはモチーフが音楽、特にジャズだったからです。

 

物語的には青春物です。

 

主人公の西見薫が佐世保の高校に転校してきてから物語が始まる、よくあるアニメの始まり方です。

 

恋愛ベクトルを巧みに重ねられていて相思相愛にならない状況を情緒豊かに表しています。

 

メインは高校の時代で起こることを描いていますが、それを拡張させている要素がモチーフであるジャズです。

 

シナリオ的にも確かに秀逸な作品です。

 

時代背景も昭和30年代後半から40年代前半で今とはちょっと違った価値観の中で描かれています。

 

私が印象深かったのが主人公の薫の葛藤もそうなのですが、サブキャラクターの“かけおち”が描かれているところでした。

 

自由な生活が担保されている現代と違い昔は制約が多い時代でした。

 

親や家の力も強くて若い人の自由が無かった時代でよくあった描写です。

 

この描写が脚本家の物か原作者の物かは分かりませんが、

 

今のアニメではこういった“かけおち”はほとんど描かれません、と言っても過言で無いと思われます。

 

かけおちしても、かけおちにならないで他の行動になってしまいます、というか、かけおちするような情熱をかけおちとして描きません。

 

桂木淳一と深堀百合香のかけおちする瞬間の描写は秀逸でした。

 

ストーリーでもいろいろ語りたいのですがテーマはモチーフなのでそこんところを考えましょう。

 

さて、モチーフって何でしょうか?

 

訳せばそれは“動機”とか“理由”になります。

 

“題材”ととらわれがちですが、本当の意味は“訳”なのですね。

 

つまりジャズがモチーフならば、ジャズを描く理由、訳とはなんぞや、の答えをストーリーに載せていく、ということです。

 

ですので、ただ題材として引用するだけでとどまってはいけない、ちゃんと描かれることが前提なんですね、モチーフって。

 

秀才で真面目でお堅いイメージの薫と、不良で破天荒な相方の川渕仙太郎はどう見てもくっつく要素や共通点がありません。

 

モチーフがない状態そのままでは転校してきたいじめられっ子の薫といじめっ子の千太郎という構図になるだけです。

 

全く個性の違う、共通点もない人同士を繋いでいる動機とは、それがジャズということです。

 

ジャズがモチーフとなって薫と千太郎が繋がり、千太郎の幼なじみでヒロインの迎律子との繋がりがあり、薫と律子の関係が生まれます。

 

私的にはモチーフって「媒介」とも訳せるのではないか、と思いますが何らかの要素があって人は繋がる事が出来るのです。

 

繋がることが出来れば人同士の葛藤や恋愛やぶつかり合いを描くことが出来ます。

 

ただし、デフォルトでモチーフは存在しません。

 

作者が与えなければならない部分です。

 

シナリオの要素からは少し離れますが菅野よう子さんによる音楽がこの作品の質や個性に貢献しています。

 

とにかく理屈抜きでシーンの音楽を見て聞いて、楽しいのです。

 

動画もちゃんと作ってあります。

 

スネアを叩くスティックの動きや鍵盤を叩く指の運びなど、安いアニメ作品は手を抜くことも珍しくありません。

 

連続した動作のシーンは同じ絵面を音楽や効果音と同調させないで描かれたりします。

 

歌を歌っているキャラクターの口パクだっておよそ4種類しか設定されません。

 

坂道のアポロンは違います。

 

リミテッドアニメでは細かく描くことが難しくてコストも掛かるのですが、ちゃんと同調させてちゃんと描かれています。

 

モチーフの質を上げると結果的に物語の質を上げられる。

 

この作品はそのあたり譲っていません。

 

譲らないで拡張したものが楽しさ、面白さに繋がっています。

 

特に音楽物は繊細に描けば描くほど観客を引き込めます。

 

リアリティが必要です。

 

あの“けいおん!”だって一見ただの女子学園バンドコメディですが、ギターのコードの押さえ方などリアリティにこだわって描かれています。

 

このように人と人のインターフェイスであるモチーフはシナリオ的には特に描写をしていかねばなりません。

 

モチーフは繊細に、深く描けば描くほど面白くなってきます。

 

その作品のこだわりといったところではないでしょうか。

 

ただ、モチーフはどうあれ物語に描かれる物事とはやはり普遍性であるということは変わりません。

 

モチーフはあくまで描くべき人の普遍性を拡張させるためにあります。

 

モチーフ先行でそれしか描かれていないような作品は、やっぱり面白くありません。

 

坂道のアポロンではキャラクター同士の心の距離が絶妙に描かれています。

 

心の距離とあえて表しますが、これが近くなったり離れたり、そのあたりが観客に魅力を感じさせます。

 

それを加速させて増幅させているのがモチーフなのですね。

 

モチーフは何でもいいのです。

 

宇宙ものであろうが、ロボットものであろうが、魔法少女ものであろうが、なんでもアリなのがモチーフです。

 

ただし決めたモチーフはとことんこだわって描くべきです。

 

モチーフは何の為にあるのかというと、それは物語に登場するキャラクターの普遍性を描くためにあります。

 

普遍性とは人の営みです。

 

この作品は半世紀ほど昔の佐世保が舞台ですが、そこにいる人々の感じることとは今の時代でも変わらない普遍的な人の営みから発しています。

 

人の営みを描くにあたって何を理由として人同士をくっつけるのか、誰もが誰も幼なじみではありませんので。

 

そこで必要なのがモチーフとなるのです。

 

ぜひモチーフについて熟慮してみてください。


【無料メルマガ】アニメから読み解くシナリオ脚本スキル

Udemyシナリオ入門レクチャー:動画で詳細解説!今なら90%Offクーポン発行中

超実践的シナリオ執筆道場

上位版シナリオ入門エクストラレクチャー執筆作業(テーマから完成まで)全12レクチャー¥2,500

あなたのシナリオを講評します:シーニャプロトンテールリヴィジョン

お問い合わせ、ご質問

トップへ戻る