アニメシナリオ脚本スキルBlog|シナリオ教室の劣等生

月がきれい|シナリオスキル

今回のお題は

 

「月がきれい」から読み解く繊細な描写、です。

 

2017年の作品で監督は岸誠二さん、脚本シリーズ構成は柿原優子さんです。

 

いろいろ珍しいのでちょっとだけ制作背景を紹介しますと、

 

この作品はいわゆる初恋ものなのですが、岸監督とプロデューサーが他者の作品から感銘を受けて作られた物です。

 

それは京都アニメーションの作品「たまこまーけっと」のOVA「たまこラブストーリー」だそうです。

 

私も見ましたがとても淡い初恋物でした。

 

個人的には京都アニメーションのアニメは演出が秀逸だといつも見ていて感じています。

 

そんな影響を受けて作られた「月がきれい」ですが他にも特徴があります。

 

それは今では珍しくプレスコで収録されているのです。

 

一般的なのはアフレコです。

 

シナリオがあって映像が作られて、声優が映像を見ながら演技します。

 

プレスコはその逆です。

 

声があって絵が作られています。

 

だから見ているとセリフにしてもなんとなく感覚的に聞こえます。

 

柔らかく聞こえます。

 

さて、シナリオ的には2点挙げたいと思います。

 

1つ目は描写の繊細さ、です。

 

主人公の安曇小太郎(あずみこたろう)は小説家志望の中学3年生、ヒロインの水野茜(みずのあかね)は小太郎と同じクラスメイトで陸上部のエースです。

 

2人の出会いは中3に上がったときのクラス替えでした。

 

お互い何か共通の友達がいたわけでも無く、イベントや事件があったわけでも無く、単に顔を合わせてからお互いを意識し始めています。

 

そして2人の距離が近くなっていくのですが、ただなんとなく惹かれる、そのようなところから描かれます。

 

その距離感も腫れ物を触るような描かれ方が成されていて2人だけで登場しているシーンでは喋る事もままなりません。

 

セリフも少なめになっています。

 

シナリオ的にはセリフを喋らせなければ観客に伝わらない訳ではありません。

 

むしろ喋るべきシーンで喋らないと、それは何かの意味を含んできます。

 

セリフとしてやたら喋らせればいいというものではありません。

 

そのような描写が成されていてとことん曖昧な感情が表現されています。

 

クラスメイトの「どこが好き?」という問いかけに茜は明確に答えられません。

 

どっちがどっちという描かれ方でなく、互いに引き合うようなストーリーテラーになっています。

 

シナリオ的に見るべき部分はとにかく描写が繊細でしっかり時間も掛けて描かれている、進行もとてもゆっくり進んでいます。

 

その中で大人でもない、子供でもない、曖昧な年代の恋愛を岸監督が絶妙に描いています。

 

岸誠二監督ってこんな絵も作れるんだ、と思うほど過去作と違います。

 

小太郎と茜はこの年代で誰もが感じる制約の中で恋愛しようとします。

 

制約とは親との関係や同性との付き合いだったり、部活での仲間だったり、

 

異性と付き合う出すと今まで当たり前だった存在が邪魔になる中で整合を取りながら、また取ろうとして上手くいかなかったり、

 

この年代特有のもどかしさを描いています。

 

2人きりで会うこともままならず、お金もあまり持てません。

 

こういった時代は誰でも経験のあることです。

 

でも大人は忘れてしまいます。

 

つまり、上手いシナリオを書きたいのなら過去の記憶が必要だということです。

 

しつこく過去の想いを覚えているとシナリオに使えるのですね。

 

私もこの作品を見ていて、なんとなく懐かしい感覚を思い出しました。

 

小太郎と茜の微妙な距離がとても上手く描写されている逸品だと思いました。

 

2つめの特筆はこういった作品を見ているといいことがたくさんあります。

 

シナリオ執筆において、

 

つまり自分が書こうとする場合にこの「月がきれい」のような作品を知っていると知らないとでは明らかに結果が違ってきます。

 

私はシナリオ初心者に対して「とりあえず映画100本、映画館行ってみてきてください」と申しています。

 

シナリオ的にはとにもかくにも映像を大量に見なければシナリオは上手くなりません。

 

特に「月がきれい」のような自分が気に入るような作品はいくらでも見ておかなければなりません。

 

私はこのコラムで言わんとすることはレビューなんかじゃありません。

 

見ているところはシナリオ執筆に使えるのか、どうか、であります。

 

青春物、恋愛物を書こうとすればこの作品は大いにヒントになる描写がたくさん含まれています。

 

これを知らないとシナリオを書くときにやっぱりハンデとなります。

 

「月がきれい」は他にも魅力があります。

 

各話サブタイトルも何らかの文芸作品のタイトルを引用しています。

 

「走れメロス」とか

 

「ヰタ・セクスアリス」とか

 

最近のアニメ作品でこのような凝ったサブタイトルは久しく見ませんでした。

 

小説モチーフとして、太宰治にちなんだ表現があります。

 

小太郎は何かにつけて太宰治の言葉を引用します。私は知らない言葉ばかりなので刺激を受けられます。

 

いつもナレーションで「太宰は言った・・・」のくだりから始まります。

 

故にタイトルの「月がきれい」とは太宰的に「告白」を意味するそうです。

 

この作品自体にもキャッチコピーが設定されています。それは・・・

 

「わたしにとってそれは・・・まるで月あかり」

 

これって茜の言葉のように聞こえます。

 

このようなテーマやログラインとは違うイメージコピーも設定しておくと作品がブレません。


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