返報性の法則から学ぶ
心理学で「返報性の法則」というものがあります。
”ヘンポウセイ”と読みます。
人間の持つ自動的に働く心理の一つですが我々リアル社会でも深く根付いている原則でもあります。
#10「先輩禁止!」はこの法則に基づいたエピソードなのです。
合宿に行くことになったμ’sは東京駅の待ち合わせ場所で”やってしまったほうがいい”ことを伝えられます。
絵里の提案は「先輩禁止」でした。
これは学校で常識となっている垣根、”学年”を取り払うことでμ’sの一体感を生みコミュニケーションを円滑にして物事を進める上での効率化を図ろうとするものです。
しかしμ’sの帰属先のアイドル研究部は学校の部活でもあります。
既存の価値観に従うのなら学年の高い順に権威性が与えられています。
なのでこの提案は”まきりんぱな”のような下級生からはできません。
これは高学年の絵里からその下のメンバーに向けた権威の譲歩でもあるのです。
簡単に言うと絵里は学年の権威に”とらわれないでいいよ”という「自由」を他のメンバーに与えたということです。
それにはもちろん絵里の肩書き”生徒会長”も含まれます。「みんないっしょ」とすることであらゆるものを同じレベルで共有する思考に切り替えましょうという提案なのです。
前述の記事でも与えなければ与えられない例をいくつか紹介しました。
広告の出し方しかり、お客さんの獲得しかり。
自分の希望や都合を相手に対して円滑に通したい場合に有効な方法として、まず相手に「与える」ことの重要性を説きましたがその根拠となるものが「返報性の法則」なのです。
ざっくり説明すると、人はなにか与えられると無意識のうちにその人に対してお返ししなければいけないと恩義を感じるようになる、ということです。
この”無意識”を利用して基本動かない人を動かす、動かしやすくするのです。
そして、まだμ’sみたいに垣根はあれど結束しているグループ内では、頼めば無条件で動いてくれるでしょうが、リアルで他人を動かす場合はそう簡単にはいきません。
無条件で頼みを聞いてくれるのは親、兄弟、親戚、家族、恋人、親友など本人と繋がりの深い人でしかありません。
お客さんは他人です。
頼んだところでそれを聞き入れるかどうするか判断されます。そして自分にメリットが無いと思われれば却下されて動いてはくれません。
もっと言うと上記の本人と繋がりが深い人だって聞いてくれないことも多々あります。
ですから前提を与えなければ話がまとまりません。
いつまで経っても自分の意見は通せないのです。”意見を通せない”とは商売という概念で翻訳すると「売り上げが上がらない」ということになります。
売り上げが上がらないと困るのでこの法則を利用します。
人は何か施しを受けると将来同じような事をお返しせずにはいられない、という性質を利用するのです。
これは騙しのテクニックとかではありません。極々普通の人の営みにプログラムされている原則です。
それを象徴する言葉を我々は日々日常的に使っています。
何か拾ってもらった時、道を聞いて教えてもらった時、何かを貰った時などに必ずと言っていいほど「すみません」といいます。
この言葉は略称で本当は「このままでは済ませません」という意味です。
施しを受けて「これで終わらせません」を略して「すみません」としています。
実際には「これで済んでいる」のですがあえて言葉だけでも「お返し」をしているのです。
また「すみません」と「ありがとう」は同義と解釈される場合があります。
お礼はお返しの気持ちから来ています。
このように恩義の気持ちは「返報性の法則」が働いた結果の行動なのです。
絵里の場合は、別に自分の意見を通しやすくするためにこのような提案をしたわけではありません。
本質は下級生とか上級生とか関係なくグループ全体で気持ちを共有するための提案なのです。
そしてこの提案により本当に馴染めていない人があぶりだされてしまいます。