コントラストの原理で印象が変わる
絵里は魅力的な大人の女性キャラです。
対して にこは小悪魔でちっさくてコミカルなツインテキャラです。
穂乃果の視点は”大人っぽい”なので並んで見ると絵里の魅力が一層引き立ちます。
この「一層」がコントラストの原理による人の心理変化です。
なにも にこをしいたげているわけではありません。
もしシチュエーションが変わって穂乃果の視点が「コミック風ツインテール」になれば対比する絵里は堅苦しいイメージになりより一層 にこの印象が上がります。
人はいつも何かと比べています。
比べることで判断決定を下します。自分の身の回りを見回してもありとあらゆる事柄に対して比べています。
自己の価値観さえも何かと比べて決定します。
この「比べる」生理機能の演出の一つがコントラストの原理です。
この原理の面白い所は「同じ」ものでも比べるものがあるとガラッと印象が変化する点にあります。
例えば商品を買う時に見る”値札”は、ただ「1万円」とするより10万円に×印を打って「1万円」とする方が同じ「1万円」でも「安く」見えます。
数値だけではありません。
道路で信号待ちをしている車は隣に大型クレーン車がいると小さく見えたりします。
でも小さく見えている車は、当然伸びたり縮んだりしていません。
大型クレーン車がどいて隣に原付バイクが止まると、その車は逆に大きく見えます。
コントラストの原理は見え方に留まりません。
ある学者さんが知覚の実験しました。どのような実験かと言いますと、まずバケツを3つ用意してそれぞれに常温の水、熱いお湯、氷水を入れておきます。
はじめに片手をお湯に、もう片手を氷水につけておきます。その後両手を同時に常温の水につけると、お湯につけていた手は冷たく感じ、氷水に手をつけた手は熱く感じます。
もちろんひとつのバケツにくんである常温の水は一定の温度です。
両手とも同じ常温の水に付けているにもかかわらず温度が違って感じてしまうのです。このように”知覚”に至ってもコントラストの原理は如実に働いてしまうのです。
さらにコントラストの原理は比べるものの”落差”が大きいほど効果を発揮し、さらにさらにしっかりした「理由付け」があると強力な影響力を放ちます。
そしてこの影響力は意図的に操作しやすく、仕掛けに痕跡が残らない特徴があります。
モノを売る場合でも単体で売れなくても比較するものを与えてあげるといきなり売れることがあります。
値ごろ感を演出したければ、わざと隣に高額なものを並べます。
高額なものとのコントラストが利いて、見る人には安く感じさせることができます。
この場合は売りたい目的の商品が、「値段の安い方」が売り易いと判断された場合ですが、肝心なのは「売りたいものを特定」し「望むべき視点」を考えて「どういうふうに見せたいか」というところです。
ですから比べられる高額の商品は”撒き餌”であり、”捨て駒”になります。
リアルでは同じような値段の商品を並べてバリエーションを見せるディスプレイが多いと思いますが、コントラストを利かすためには同じ並べ方でも値段、グレードに工夫があったほうが売り易いのです。
松竹梅とランクで分けられている場合も”竹”を売る為に”松”と”梅”があります。
もちろん松だって梅だって求められていいのですが、売りたいと思う商品を”竹”に設定することでより一層引き立つのです。
マニアックな例を考えました。
ことりちゃんのアルター製フィギュアを売りたいとします。ひとつ2万円弱します。
これを真ん中にして隣に(実在しませんが例えばの話です)アゾン製のことりちゃんフィギュアを置きます。ひとつ5万円です。
反対側にことりちゃんのねんどろいどを置きます。ひとつ3500円です。
これでコントラスト完成です。さらに訴求力を追加してアルター製のことりちゃんの値札に¥25000にバツ印をしておきます。
さらにさらにアルター製ことりちゃんの前だけに「在庫処分、特別奉仕品、明日まで!!」と書いたタグをデカデカと設置します。
アゾン製とねんどろいどには何も施しません。これで一気にアルター製ことりちゃんが引き立ちました。
見た人は何の違和感もなく真ん中のアルター製ことりちゃんを見ることでしょう。
この演出はアルター製ことりちゃん単体では成し得ません。単体のままではいくら安くした旨を書いても見る人には「安く」映らないのです。”2万円”は高額という印象しか伝わらず結果売れ残りとなり塩漬けになってしまいます。
このコントラストの原理は商売に限らず絵里と にこのように物語の演出としても応用できます。
泣いてるキャラクターを引きたてるために笑っているモブキャラを周りにたくさん配置してみたりするとより一層泣いているキャラクターの感情が伝わってきます。
学校のテストでよくない点をとってしまって親に見せ難い場合なんかでも誇張した前提を与えることで同じ点数でも高く感じさせられることができます。
あるものそのままより何かと比べる、比べさせることで相手に対して案外簡単に高くも低くも印象付けられるのがこの心理の特徴なのです。
シナリオを書く場合でも演出の方法としても、
観客に分かり易くしかも簡単に印象の操作が出来てしまうのです。