「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない(プチデビル編))」から読み解くシナリオ脚本スキル

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない(プチデビル編)|シナリオスキル|テンポと落としどころの意外性

今回のお題は

 

「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない|古賀朋絵編」から読み解くテンポと落としどころの意外性、です。

 

以前、「青ブタシリーズ」の初回としてバニーガール先輩こと桜島麻衣編を紹介しました。

 

今回は第二回目として“プチデビル”こと古賀朋絵編を考察してみます。

 

このエピソードも良く出来ています。

 

特に朋絵の感情表現と彼女の感情の落としどころに工夫が凝らされています。

 

“落としどころ”とはお話しのまとめ方、という意味です。

 

古賀朋絵編も桜島麻衣編と同様、アニメ版では3話にまとめられています。

 

その布石は桜島麻衣編の本編中に組み込まれています。

 

主人公の梓川咲太とは公園で尻を蹴り合った仲として面識があります。

 

朋絵の“思春期症候群”とは「独りになりたくない」でした。

 

仲のいい友達から仲違いすること、離れることを恐れています。

 

あらすじはこうです。

 

朋絵は学校のクラスでも特定のグループに属していました。クラスの中でも仲のいい少人数の友達グループです。

 

朋絵はその絆に重きを置いていました。

 

あるとき、朋絵はその大事な友達が憧れている先輩から告られてしまいました。

 

この日から朋絵の思春期症候群が始まってしまいます。

 

その現象とは“同じ日をくり返す”というものです。

 

当の朋絵となぜか主人公の梓川咲太だけ、同じ日をループしてしまいます。

 

朝起きると前日と同じで、また翌日も朝からやり直し、となります。

 

周りの人は自覚がありません。朋絵と咲太だけ同じ日をくり返す現象を認識できます。

 

咲太は次の日が来ないと憧れのバニーガール先輩と永遠に付き合えません。

 

困った咲太は親友の物理オタク、双葉里央に相談を持ちかけたところ、“ラプラスの悪魔”の仕業と判明します。

 

ほどなくして咲太はその“ラプラスの悪魔”が朋絵だと分かります。

 

故に古賀朋絵編は「青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない」というタイトルが付けられています。

 

朋絵の思春期症候群を引き起こすストレスとは「独りぼっちになりたくない」というものですが、その危惧した状況になりそうな雰囲気に陥ります。

 

朋絵はその告った先輩には興味ないのだけれど、受け入れる、断るという判断の前に「告られた」事実の先にある懸念に頭をもたげます。

 

それは「大事な友達の憧れの先輩から告られた事を知られたらハブられる」というもの。

 

受け入れるのは本意では無いので元からNGなのですが、ではどんな理由で断るのか、それが問題となりました。

 

交際を断るにも告った先輩も含めて周りの人たちが納得する理由というものが必要でした。

 

納得する理由が無ければとどのつまり、朋絵は結果的に“ボッチ”になってしまいます。

 

こんなシチュエーション、よくある話ですが実際にハブられたりボッチになるとは限りません。でも朋絵は神経質に恐れていました。

 

それだけはなんとか回避したい。

 

そこで朋絵が考えついたのが“仮の恋人を作る”でした。

 

彼氏がいるとなれば交際を断る理由にもなるし、周りも納得する・・・その相手役として尻を蹴り合った咲太に朋絵は依頼します。

 

当然、咲太には朋絵の依頼を受け入れる理由がありませんから断ります。

 

互いに成立する理由が無ければ人は行動出来ません。

 

これもリアリティです。

 

どのように朋絵の依頼を咲太が受け入れられるようにしたのか、この設計に妙があります。

 

咲太の大事な妹の梓川かえでが引きこもりになる直前に言ったセリフと同じことを朋絵にも与えてあります。

 

なぜ独りぼっちがイヤなのか、その理由とは、

 

「恥ずかしい」でした。

 

普通は「寂しい」とか「つまらない」とかの表現になると思います。

 

そこへ持ってきて「恥ずかしい」とする表現は、まさにこれが間接表現です。

 

多分原作者の鴨志田一さんのアイディアと思われますが、これが凄い!

 

咲太は可愛がっている妹と同じ事を言う朋絵に、感情移入せずにはいられなくなります。

 

理由が出来ました。よって朋絵の策略に力を貸す羽目になるのです。

 

朋絵のストレスがある程度解消されると普通通り日付が変わっていきます。いつもの毎日が当たり前のように訪れます。

 

つまり、朋絵がストレスを感じると同じ日をくり返し、やり直しが出来るようになります。やり直した結果、落ち着いた展開になると正常に戻るという現象が朋絵の思春期症候群です。

 

咲太は期間限定で恋人役を引き受けますが、ここからはよくある話になります。

 

仮の恋人のはずが、いつの間にか本当の恋になる、というもの。

 

共に行動するうちに朋絵は咲太に魅せられていきます。

 

そして約束の期限が迫ったとき、朋絵はある“嘘”をつきます。

 

離れなけらばならない好きになった先輩と離れたくない、そのストレスがまた悪魔の力を呼び覚まさせます。

 

咲太は朋絵と本当の恋人となること無く朋絵のストレスを解放することに成功しますが、最後に朋絵はまた時間を巻き戻します。

 

その巻き戻す“尺度”が絶妙なのです・・・。

 

どこまで巻き戻したのか、これが古賀朋絵編の落としどころとなります。

 

これ以上はネタバレしてしまいますので気になる方は実際に見て確認して下さい。

 

「そうきたか!」と感じるはずですw意外性のある展開です。

 

そして特記するべきはお話しのテンポです。

 

見てみるといくつか展開するエピソードがあり、その集合体でストーリーになっていますが、短くてハッキリしています。

 

朋絵が咲太に期間限定恋人役を依頼するシーン、腹を立てた麻衣に訳を話して理解を得るシーン、駅のホームで咲太と告った先輩がケンカするシーン・・・。

 

こういった話立てが端的にまとめられていて軽快にパンパン遷移します。

 

とてもリズミカルです。

 

こういったお話しの進め方はハリウッドのジェリーブラッカイマーのドラマでも感じます。

 

そしてじっくり魅せたいシーンにはじっくり時間をかけて見せるのです。

 

お話しの設計が複雑なのでそれぞれのエピソードごと時間を掛けたくなるものですが、そこをあえて必要なシーンだけ“短く”して展開に繋げています。

 

そして抜かりないのが前話までの麻衣との続きだったり、今後の布石もその短いエピソードで挿入しています。

 

その中でメインヒロインの牧之原翔子との出会い(再会?)も描かれています。

 

そんな器用さも感じる作品が「青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない」です。

 

最後に、

 

「じっくり魅せたいシーン」とは朋絵が咲太に告白するシーンだと思われますが、咲太は朋絵の気持ちを否定せずに受け入れました。

 

受け入れた、と言っても実際の恋人になるのでは無く付き合いだすわけでもない。

 

でも咲太は朋絵を受け入れました。

 

交際を断るのでは無く、拒否するのでは無く、「受け入れた」のです。

 

朋絵の気持ちを受け止めて、そして受け入れる。

 

そうしてやっと朋絵は今に留まるのでは無く、何度もやり直すのでは無く、次の行動に移ることが出来たのです。

 

このシーンがとてもきれいに描写されています。

 

ガッツリ朋絵の感情に入り込めてしまい、ちょっと泣けてしまいました。

 

「ああ〜、こういう落としどころもあるんだな」と感じさせるシーンでした。

 

この「青ブタシリーズ」はこういった描写力に優れているところが見ている人の心に響くのですね。

 

それを発想出来るクリエイターって凄い!


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