「冴えない彼女の育て方(第一期)」から読み解くシナリオ脚本スキル

冴えない彼女の育て方(第一期)|シナリオスキル|イメージキャラクター

今回のお題は

 

「冴えない彼女の育て方」から読み解くイメージキャラクター、です。

 

さえないヒロインのそだてかた、と読みます。

 

「冴えカノ」と呼ばれています。

 

はっきりいってオタクアニメです。

 

2次元やラノベ、同人誌などに興味の無い人にとってはドン引きするような作品です。

 

丸戸史明さん原作のライトノベルでラブコメです。

 

アニメ版は2015年に放映されました。

 

監督は亀井幹太さんでシリーズ構成、脚本は原作者の丸戸史明さんです。

 

オタクアニメなので一般の人にも理解しやすいように要点だけお話ししたいと思います。

 

シナリオに登場するキャラクターってどうやって発想すればいいのでしょうか。

 

その具体例がこの作品には示されています。

 

具体的なキャラ造形はイメージキャラクターを置くと発想に貢献します。

 

実在する作者の知っている人物をシナリオに登場するキャラクターのモデルにします。

 

モデルではありますが知っている人物をそっくりそのまんま写す訳ではありません。

 

ある1部分の特徴だけ拝借します。

 

特に知っている人の“いいところ”を頂いてシナリオの人物に反映させるのです。

 

シナリオ的にはこのようなモデルがいるとリアクションなどの発想がしやすくなります。

 

つまり、この人だったらこんな反応をする、という部分をキャラクターに重ねるのです。

 

それ故、作者が知っている人物でもある程度反応が想定できる相手を選ぶべきです。

 

「この人ならこんな反応をするだろう」

 

「この人らしい」

 

「この人ならこんなこと言いそう」

 

こういったリアクション(反応)が読めないとモデルになり得ません。

 

よく有名人や芸能人をイメージキャラクターにしろ的な事を言われます。

 

でもその考えは間違っています。

 

モデルにした芸能人や著名人の個人的な知り合いでも無い限り、その人のリアクションは読めないし、使えないのです。

 

ドラマで演技する俳優なんか絶対にモデルになり得ません。

 

有名人がテレビなどで見せているものとはその人由来ではありません。

 

ドラマの俳優のアイデンティティは、その作品を作った脚本家だったり、演出家だったり、監督が発想した人物像です。

 

徹底的に細部まで他人が設計したキャラクターです。

 

それを真似ることとは「パクり」というモノです。

 

有名人をイメージキャラクターにせよ、と言われる人は

 

「パクりをせよ」

 

と言っているのと同じことです。

 

やってみれば分かります。

 

他人の作品のキャラクターがそのまんま自分のシナリオで登場します。

 

オリジナリティも面白さも感じません。

 

だから使えません。

 

引用できる人のパーソナルとはあくまで個人レベルです。

 

あなたが個人的に知っていて、あなた独自の観測があって初めて使えます。

 

そうしないとオリジナルになりません。

 

他人の誰もが知っていて、すでに多くの観測がなされて使い果たされたキャラなんか使えないのです。

 

ぜひ知っておいて気をつけて頂きたいところです。

 

さて、

 

冴えカノの主人公、安芸倫也(あきともや)は高校生で重度のオタクなのですがゲーム制作サークルを立ち上げるキッカケからお話しが始まります。

 

そのキッカケとなったのがヒロインである加藤恵との出会いでした。

 

倫也は桜舞い散る春の日の朝、新聞配達のバイト中にある“イベント”に遭遇します。

 

まるで映画やドラマの1シーンのような素敵な場面に立ち会います。

 

「坂の上に立つ白いワンピースを着た美少女の帽子が風に飛ばされる」 というシーンなのですが、そのシーンに倫也は感銘を受けてしまいます。

 

そしてこの感銘をゲームにしたくて、ゲームとして表現したくて個性の強い仲間を集めて奮闘するのですが、坂の上に立っていた美少女がヒロインの恵でした。

 

感銘を受けた美少女が倫也のクラスメイトだったとはいかにもラノベっぽい設定ですが、倫也自身がそれを認識したのはずいぶん後になってからでした。

 

倫也自身はシーンに魅了されて当の本人の顔も覚えていません。

 

また、恵は倫也とはずっと同じクラスにいますがちっとも目立たない存在でした。

 

2人が本当に出会ったのは入学式ですが、倫也が恵を認識したのは恵があの坂で帽子を拾ってもらったお礼を言ってからでした。

 

それまで倫也は恵の名前ですら正確に覚えていませんでした。

 

感銘を受けたシーンのヒロインはこのように目立たない、ヒロインとしては冴えない女の子だったのです。

 

倫也はヒロインとしては冴えない恵との出会いによりゲーム制作を志します。

 

つまりは冴えない人物をモデルとして、イメージキャラクターとしてゲームを作ろうとするお話しです。

 

シナリオ的にはちょっと順番が違います。

 

シナリオを書こうとしてモデルを探したのでは無く、具体的なモデルがいて行動しています。

 

いずれにしてもこのようなモデルの設定はリアルの我々の創作にも欠かせない要素となります。

 

というか、モデルもいないところで人物を発想しろなんて、それこそムリゲーなことです。

 

人の個性なんて選択肢が固定化できるものでもありませんので誰か他のイメージに頼るしかありません。

 

ステロタイプなキャラクターほど退屈なモノはありません。

 

本来のヒロインとしての存在感やアイデンティティとは真逆の人物像が恵の個性です。

 

このギャップがこの作品の面白さに繋がっています。

 

実際にはキャラ造形においてモデルから引用できる部分としては極一部だけです。

 

そこに憧れ性や共通性を持たせて魅力付けをしていきます。

 

でも何にも無いところからはさすがに発想が難しくなりますのでベースとしてモデルは必要な存在なのですね。

 

例え冴えていなくとも。

 

もし、シナリオを書いていて人物像が上手く作れないと感じているならば、

 

このような具体的な実在する人を想定して、

 

その人の“いいところ”を見つめてみて下さい。

 

冴えカノはこれ以外でもゲーム制作に欠かせないスペシャリストが登場します。

 

シナリオライター、絵描き、音楽、とそれぞれその分野に長けたプロ級の特殊技能者が出てきます。

 

この作品の原作者がホンを書いていますので絵や音楽についてはあまり深くは描かれていませんが、シナリオ面での描写に専門性を感じます。

 

また製作工程なども描写されていますのでこのようなお仕事に興味あれば楽しめます。

 

創作にまつわる憂いという描写も見られます。

 

ただ、重度のオタクが主人公でもあるので、アニメの美少女を見て「うぇ!」と思う人には向かない作品です。

 

イメージキャラクターの恵は冴えない非オタですが、モデルから受けられるインスピレーションというものが表現されています。

 

冴えカノからはこんなことも感じさせてくれるのです。


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