「D4DJ FirstMix」から読み解くシナリオ脚本スキル

D4DJ FirstMix|シナリオスキル|ストーリーテリング

今回のお題は

 

D4DJ First Mixから読み解くストーリーテリング、です。

 

ストーリーテリングとは、一言で言えば物語の「語り方」でいいと思います。

 

つまり、物語をどのような流れで語っていくのか、ということですが、

 

今回のD4DJ第一期みたいな若い人の成長物語は今時のアニメでは王道ですので考えてみましょう。

 

一定のパターンが存在します。

 

極簡単に流れを説明すると・・・

  1. 物事を動かすキーキャストが登場し、牽引役となる
  2. 牽引役は既存のキャストのハブとなり、モチーフを共有する仲間を集める
  3. 何らかの目標があり、スキルを上げていく
  4. 仲間やその周囲の人物や環境などとのぶつかり合いなどを通じて葛藤が描かれる
  5. ライバルが出現して競い合う
  6. そのライバルに打ち勝つか徹底的に負ける、という結果が現れる
  7. それでも何らかの成果を手にして、大団円で終わる

ま、こんな感じでしょうか。

 

お話の形としてはこの工程の間に必ず「遊び」が入ります。

 

「遊び」とは、物語の進行を一旦止めて、ビジュアルを見せる時間を設ける、ということです。

 

D4DJの場合はライブパフォーマンスだし、戦闘シーンかもしれないし、競技会や異空間の描写かもしれませんが、

 

いずれにしてもこの「遊び」を入れることにより、作品の魅力が発揮出来るようになります。

 

そしてその「遊び」はテーマやモチーフに直結する場合が大概です。

 

お話ってストーリーさえ充実していればいい、ということではありません。

 

何らかの具体的なアクションを見せる時間がちゃんと設けられてなければお話だけでは伝わらない、のです。

 

だから、どっちかというとお話を聞かせるのではなく、そのアクションシーンを見せるためにお話があるんですね。

 

シナリオを書いているとその順番が逆と勘違いしてしまいます。

 

お話はいわゆる説明です。

 

その具体的なアクションを見せるつじつまを合わせているだけですので、メインは、例えばD4DJの場合はライブパフォーマンスとなります。

 

故に「遊び」は必ず入れなくてはなりません。

 

そしてその品質にフィクションを入れています。

 

つまり登場人物の設定ではおよそ適わない品質を与えてある、のですね。

 

D4DJではブシロードが作っていますし、ラブライブ!ではランティスがプロデュースしています。

 

そこで示される楽曲は女子高生が作れないほどの高度なものとなり、メディアミックス前提という大人の事情で作られています。

 

さて、

 

今どきは音楽を披露するにしても、昔みたいにドラムを揃えて、ギターを揃えて、なんてしなくても音楽が作れる時代になりました。

 

打ち込みと組み合わせるソフトがあれば誰でも作曲家になれてしまいます。

 

すごい時代になりました。

 

それでも人が行う以上、仲間との共有がなければ相乗効果もありませんので、やっぱり昔ながらのメンバー集めの末に理想とする結果が描かれます。

 

昔と違うところはツールだけ、なんですね。

 

D4DJはDJ活動として音楽を描いています。

 

やっぱり音楽は直感で感じるものだからモチーフに向いています。

 

それも昨今のアニメは音楽的にもそうとう優秀なバックボーンを兼ね備えていて、見ていて聞いていて楽しい。

 

かなりリアルライクに描写されている部分も楽しい特徴がありますね。

 

斜陽気味なPioneerの中でも数少ない収益部門であるPioneerDJも登場します。

 

アニメ版であるD4DJ FirstMixは2020年冬期の作品です。

 

水島精二監督、雑破業さんがシリーズ構成で、なぜか最終話あたりでは彩奈ゆにこさんが書かれています。

 

ブシロードのリズムゲームベースのオリジナル原作で、楽曲関係はブシロードといえば「Elements Garden」が中心となっています。

 

音楽プロデューサーは登場するユニットで担当が分かれてるようで、水島精二監督も「Photon Maiden」をプロデュースしています。

 

水島精二監督はPhoton Maidenもそうですが、「楽園追放」のアンジェラ・バルザックや「BEATLESS」のレイシアのような、あ〜ゆ〜イメージが好きですねw

 

製作はサンジゲンでセルライクフルCGアニメです。だいぶ安定した画になってきてますね。

 

メインヒロインは南国から転校してきた「愛本りんく(あいもとりんく)」です。

 

りんくがDJ活動でくすぶっていた明石まほ(あかしまほ)と出会って、のちにこの物語のメインユニットである「HAPPY AROUND!」を結成します。

 

D4DJの原作ではたくさんユニットが登場しますが、

 

アニメ版ではメインの「HAPPY AROUND!」(以下:ハピアラ)、

 

絶対王者の「Peaky P-key」(以下:ピキピキ)と、

 

ハピアラの対抗馬として「Photon Maiden」(以下:フォトン)、この3組が登場します。

 

前説はこれくらいにして、

 

まずメインヒロイン、主人公が仲間を集めます。

 

D4DJの場合は1ユニットの人数を多くしていません。

 

どのユニットも4人です。

 

少なくすることにより、それぞれの人物のいきさつ描写が時間を掛けて繊細に描くことが出来ます。

 

丁寧に描くことが出来ます。

 

D4DJの特徴的な描写として、“間” の取り方があります。

 

アニメでも間を取る描写はたくさん出てきますが、ことD4DJではその“間”が 「極端に長い」 のです。

 

通常の2倍から3倍、時間を使ってます。

 

当然、画が持たなくなるので、まばたきなどの演出はかませてありますが、とにかく長いのです。

 

これが面白い。

 

特に感情って見せりゃいいというものでなくて、それなりに時間を要します。

 

そのあたり、ちゃんと描くことで丁寧さと緩急が表現出来ています。

 

無論、他のユニットでも深掘りしてありますが皆がみんなそのようにしてある訳ではなくて、関わりの深い部分だけ、焦点を合わせてあります。

 

これが1ユニットで10人以上とかだと、主人公が10人との関わり合いを作らねばならなくなり、それだけで尺を使ってしまいます。

 

ヒロインのりんくはハピアラのメンバーとの関わり合いに十分な時間が割り当てられていて、メインユニットとしての立場を明確にしています。

 

人物が少ないとまとまりやすくなります。意思決定が簡単になるのですね。

 

そして着実なステップアップが安心して描けます。

 

パピアラは学園祭で選ばれたユニットしか参加資格のないSunset Stageを目指します。

 

そこで登場するのがライバル役のPhoton Maidenです。

 

コンセプトも成り立ちもイメージもハピアラと真反対なユニットですが、この存在がメインを際立たせています。

 

この対比、私がD4DJって面白いと感じたところです。

 

ハピアラとフォトンはSunset Stageの出場権を賭けてバトります。

 

結果としてはハピアラが勝つのですが、なんでハピアラが勝って、フォトンが負けたのか、そのいきさつに「これぞシナリオスキル」と思えた部分がありました。

 

ハピアラは、とにかくりんくのイメージが優先されます。

 

りんくの価値観はみんなで楽しく、が主だと思われます。協調ですね、それがベースとなってその中でいいものを模索しています。

 

故にメロ担当の渡月麗(とげつれい)の意思を尊重して全く新しいチャレンジをしました。これが勝因。

 

対してフォトンの場合は、そもそもユニット自体がプロデュースされていてメンバーの意思が存分に発揮できない環境下にいます。

 

メンバーは満足していない訳ではなくても、どこか「やらされている感」を抱いていました。

 

劇中、りんくとフォトンのメンバーである花巻乙和(はなまきとわ)が学食でお昼を食べるシーンがありました。

 

乙和はりんくにハピアラの印象について、

 

「私もあんなのやりたいな〜」と明かします。

 

これには笑いました。

 

なんで自分のユニットと別のユニットに魅力を感じているのか、しかもけっこう本音のように言っています。

 

フォトンのキーキャスト、出雲咲姫(いずもさき)も同様に、フォトンらしいと言われる「暁」を歌い終えて、なぜか俯きます。

 

つまりメンバーの納得が勝敗を分けたのですね。

 

後にフォトンは「自分たちらしい」暁のリミックスを作ります。

 

このエピソードが最大の葛藤と克服である、と私は感じます。

 

確かにりんくと幼なじみでハピアラVJ担当の「大鳴門むに(おおなるとむに)」との確執も描かれましたが、これは見て分かる葛藤でした。

 

フォトンの葛藤とハピアラとの対比は感じないと分からない葛藤です。

 

こういった脇役にも丁寧な描写がこなせるのもバランスのとれたキャスティングボードがあるから、なんですね。

 

そしてSunsetStageでは、あっけなく王者のピキピキが優勝をかっさらいます。

 

それでも一応の成果を残せたのでハピアラは「また頑張ろう」となりました、とさ。

 

そして王道の締めくくり方、大団円で終わります。

 

そう、みんなで踊る、とする見せ方はいつの間にか?昔から?よくあるパターンです。

 

インドの映画とかを観ても、なぜか最後に登場人物全員で踊ったりします。

 

ただD4DJはここにも一工夫してあって、ハピアラとピキピキとフォトンがステージに立ってそれぞれの楽曲を披露します。

 

普段のステージでは、それぞれのユニットはイメージに合ったコスチュームをまといますが、この大団円ではあえて制服姿で登場します。

 

みんなと同じ、としてエンディングを迎えます。

 

こうすることで後夜祭に参加しているギャラリーにも、私たち視聴者にも共感を呼ぶことが出来るのではないでしょうか。

 

そんなところにも水島精二監督のさすがな演出と思わせてくれるD4DJ FirstMixでした。

 

こういったサクセスストーリー的なお話にはパターンが存在します。

 

でもそのパターンやストーリーテリングはそれとして、その中でどのように描写すれば他との違いが出せるのか、これがシナリオ的に勝負所だと思われるのです。


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