「フルーツバスケット(第一期)U」から読み解くシナリオ脚本スキル

フルーツバスケット第一期U|シナリオスキル|愛おしさと演出

今回のお題は

 

もう一回「フルーツバスケット」から読み解く愛おしさと演出、 です。

 

前回この「フルバ」から人物の魅力について、“いとおしさ”を紹介しました。

 

なんか、この感情についてサラッと通り過ぎたくない気がしたのでもう一回だけお付き合い願いたいと思います。

 

ヒロイン本田透、「とおるくん」の性格はバカみたいに真面目です。

 

とおるくんの愛おしさに繋がる行動要素として感じるのはやはり「思いやり」ではないでしょうか。

 

相手をおもんばかる気持ち、これがバカみたいに強いキャラクターです。

 

「フルバ」はラブストーリーではないので恋愛には発展しません。

 

本編では恋愛になるエピソードこそ描かれませんがその気になればいつでも恋愛スイッチが入れられるようなシチュエーションではあります。

 

とおるくん自身は相手をおもんばかる気持ちを恋愛という感情で使いません。

 

とおるくんの「思いやり」は彼女のパーソナルです。

 

単に自分のパーソナル、自分らしさとして、地としてそういう性格の持ち主です。

 

そのような“見返りを求めない無償の愛”に相手役の草摩由希、草摩夾をはじめとする草摩の一族はとおるくんに魅せられていきます。

 

恋愛にならない事情もあります。

 

この整合性は原作者のアイディアの素晴らしいところだと思います。

 

十二支に憑かれた草摩の人は異性に抱きつかれるとシュポン!と変身してしまいます。

 

それぞれの干支の動物に変わってしまうのですが、そのコミカルな変化とは裏腹に抱きつかれて変身してしまう意味とは、

 

異性と寄り添えない、ということです。

 

だから結婚も出来なければ恋愛行動もとれません。

 

これが草摩一族のカセとなっています。

 

これが彼等の忌むべき運命として暗い影を落とします。

 

そしてその事実を知った異性は草摩から離れていきます。そうせざるを得なくなります。

 

草摩の一族の人と付き合うには致命的な葛藤が待っています。

 

人の「思いやり」を受け入れられません。

 

だから草摩の人も、その人物に興味のある普通の人も心を近づける行動が出来ないのです。

 

そこへ持ってきて、とおるくんはそれでも自分の信念として無償の「思いやり」を分け与えます。

 

そう、「バカみたい」に分け与えるその信念を曲げません。

 

本田透のこの姿勢が強さや人を引き寄せる魅力と写ります。

 

草摩の人たちにとって「愛おしく」感じられてしまうのです。

 

事実を知ったら普通は離れていく、でもとおるくんは事実を知っても離れずに寄り添おうとする、

 

このようにとおるくんは普通と違うから特別な存在になるのです。

 

さて、

 

とおるくんの「いとおしさ」とは客観的な評価によるものです。

 

悲しいから泣く、とか面白いから笑う、のような直接的な描写ではなく、あくまで観測してみたら愛おしく感じる、というものです。

 

シナリオ的に言えば間接表現です。

 

“愛しさ”という個別の演技があるわけではありません。

 

この演技とこの演技を組み合わせて見せたら結果的に見ている人が「愛おしく」感じてくれる、というものです。

 

いわゆる化学反応の賜、です。

 

これがシナリオの真骨頂なわけですが、とりわけ「いとおしさ」のような抽象的な感情においては、では何と何を組み合わせればいいのか、これがセンスの分かれ道です。

 

そんなの素人に理解出来るわけありませんよね。

 

だから私は既存のコンテンツから読み取ってみてそのパターンを応用するやり方が分かりやすいのでは、と思います。

 

そしてシナリオを知るにあたり、どこかで必ず私と同じ感想を持つはずです。

 

「演出を知らなければならない」と。

 

演出のお勉強はこのコラムで語り出したらキリがないのであえて避けますが、

 

やっぱり既存の映像コンテンツを見て「どうなっているのか」を実際に目で確認した方が理解しやすいはずです。

 

「フルバ」を見て「愛おしさ」とはどんな描かれ方をしているのか、

 

シナリオ的に言えることがあります。

 

ひとつは間接なので結果的に見ている人が愛しさという感情を感じること、

 

もうひとつは画面の中の登場人物が実際に「愛しさ」を感じている事、その様を見せること、です。

 

直接ではなく間接表現なので“何”と“何”を組み合わせたら「愛おしい」になるのか、ということを考えなければなりません。

 

そして観客より率先して登場人物自らその感情になっていなければなりません。

 

これが肝心です。

 

どのようなとおるくんのアクションと、どのような由希や夾のリアクションを組み合わせたら結果的に「愛しい」と感じて貰えるのか。

 

そして画面の中の由希や夾がとおるくんを実際に「愛しい」と感じているシーン、これを描かなければなりません。

 

愛おしさを見せたければシーンとして実際にそうなっているキャラクターを見せなければなりません。

 

これって以外に抜け落ちます。

 

愛しているのなら、実際に愛している行動を見せなければなりません。

 

切ないならば、実際にキャラクターが切なくなっていなければなりません。

 

悲しければ、泣かせたければ画面の中の演者が悲しい気持ちになっていなければ感情移入は起こり得ません。

 

それも間接表現です。

 

単に愛しているからキスシーン、ではありません。

 

何かと何かを組み合わせて、その意味を伝えるのです。

 

まあ、こういったことを考えるのが演出だったり、コンテだったりするわけです。

 

でもシナリオだって演出に無関心ではやっぱり上手く書けません。

 

あなた様が普段見ているコンテンツで「この作品、いいな〜」とか思ったらどのような化学反応によって訴求されているのか、是非そのような視点でも検証してみて下さい。

 

その化学反応はとても応用が利きます。

 

ご自分の作品に使えますので素敵なシーンに巡り会えたなら要チェックですよ。

 

そして「愛おしい」シーンを実際に見せて下さい。

 

やっぱり草摩紅葉の劇中話を紹介したくなりました。

 

次回ももう一回だけ「フルバ」にして草摩紅葉のセリフだけ紹介します。


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