モーレツ宇宙海賊|シナリオスキル|箱書き構成法
今回のお題は
「モーレツ宇宙海賊」から読み解く箱書き構成法、です。
“もーれつぱいれーつ”と読みます。
通称「モーパイ」w
笹本祐一さんのラノベ原作でSF、宇宙海賊モノ、宇宙戦艦モノです。
原題は「ミニスカパイレーツ」ですが、アニメ版は「モーレツ宇宙海賊」として佐藤竜雄さんが監督しました。
アニメ版制作元請けはサテライト、シリーズ構成は佐藤竜雄監督兼務で2012年に放映されました。
佐藤竜雄監督といえば、その昔「機動戦艦ナデシコ」という名作(迷作?)アニメが有名です。
このナデシコ、監督名義こそ佐藤竜雄さんですがストーリーエディターとして會川昇さんが参加されています。
この二人、正統派の佐藤監督に対してアウトサイダーの會川昇さんという組み合わせで書かれていますが、とにかく面白ければ何でもアリのてんこ盛りのゴッタ煮みたいな混沌とした作風に仕上がっています。
今回の「モーレツ宇宙海賊」はその正統派の方の佐藤竜雄さんが作りました。
だから見てみると “フツーに面白い” というのが私の感想です。
アニメにおいて、未来の宇宙モノや宇宙戦艦モノは定番です。
それはアニメという表現技術がそういったカテゴリーに向いている為です。
人の空想を実体化しやすいのです。
松本零士さんなどに代表されるように、宇宙を大海原に例えてそこで活躍する冒険モノはかつて人類が地球上で繰り広げた海を支配する過程になぞられています。
説得力もあるし、空想も広げやすいし、何よりそこに登場する人物デザインやガジェットに未来感が載せられます。
この未来感を表現することはエンタメにおいて必ず用いられる普遍的な事であります。
今現在のリアル、現実ではなく未来を想像して表す事、それこそフィクションの醍醐味なのです。
そんなわけでこの作品もバリバリ未来の世界観がきれいに楽しく描かれています。
さて、
お話の筋としては、女子高生でヒロインの「加藤茉莉香」が宇宙海賊船の船長になって活躍するといったものです。
登場人物も多いのですが、それはまあ2クール26話も引っ張らなくてはなりませんからそうなります。
ざっとセリフのあるキャラクターを数えてみたら49人もいました。
モブも含めたらもっと多くなります。
49人分の個性を描く・・・やっぱプロって凄いですね。
シナリオ的には今回のお題の通り、箱書き構成法が見て取れます。
“箱書き”とはどういったものなのか、簡単に説明すると、シナリオを書く場合の構成法のひとつです。
お話の筋や流れを分割して考えます。
箱書きによりプロットやお話しの進め方やエピソードの配置などを検討する、つまりは構成手法です。
本屋さんで売っている本ってありますよね。本には冒頭に目次というものがあります。
その中身はいわゆるインデックスですが文章の塊にくくり、見出しが付けられていますね。
部、章、節・・・というものです。
本の構成として “部”の中に何個かの “章”がぶら下がっていて、“章”の中にも何個か“節”がぶら下がる形で具体的な記述があります。
トーナメントの表やパソコンのフォルダの階層みたいに、マトリョーシカみたいに、まとめられている表題があってその下に各論が何個かぶら下がっています。
書籍の場合はおよそ3階層ですね。
この 部、章、節の仕組みを“大箱”“中箱”“小箱”としてお話しにくくりを付けて考えます。
こんな感じでお話しのまとまりを“箱”に例えて構成の組み立てを行うことを「箱書き」といいます。
ただし、この箱書きにはルールなんて存在しません。絶対に箱書きをしなければならない、というものでもありません。
「一応こういうものだよ」という解説としてこのように説いていますが実際は作者さんのやりやすいと思うやり方で書かれている、というのが実際です。
大箱と小箱しかくくらない作者さんもいれば、そもそも箱書きなんてやらない作者さんもいるでしょう。
ただ初心者ならば目に見えて構成を考えた方が分かりやすいし、それは読み手、視聴者にとっても見やすさ、理解のしやすさに繋がります。
今回紹介している「モーレツ宇宙海賊」でもそれぞれのエピソードはくくりによって見せています。
具体的にどうなっているのかというと、
1話〜5話までが、ヒロイン加藤茉莉香が普通の女子高生から海賊船の船長になるまでのエピソード。
6話〜12話が海賊船の船長としての仕事面を描いています。
サブヒロインであるグリューエル・セレニティの依頼を通して船長としての資質を見せています。
13話〜19話までが加藤茉莉香ひとりだけで海賊業を営むエピソード。
20話、21話が箸休め的なパートで茉莉香の後輩の活躍を見せています。
22話〜最終話26話までが海賊狩りの出現と戦い。
死んだと言われていた茉莉香の父、加藤コンザエモンが登場して最強の敵が現れます。
この作品の大箱としてはこんな感じになるでしょう。
お話しを進めるにあたり、大枠の筋を大箱として複数話配置されています。
そして中箱としてサブタイトル付きの個別の各話が入っていて、各話の中に小箱として具体的なエピソードが描かれています。
このようにお話しをどう見せるかによって視聴者への伝わり方も変わってきます。
私が「フツーに面白い」という“フツー”とは解りやすいという意味であります。
各エピソードもちゃんと必要な尺を使って魅力を伝えられています。
詰め込みすぎず、丁寧な描写が見て取れます。
ちゃんと構成検討がなされています。理路整然としています。
シナリオ素人の普通の人が普通に書くとフツーにならずに、普通に空中分解します。
だから箱書きのような構成法が必要になるのですね。
箱書きにこだわらなくてもいいのですが、このような構成検討を踏まないで思いつくままに書いたらどうなるか、考えてみて下さい。
結果は明白です。
上手くいくわけないじゃないですか。私もみなさん脚本勉強家だって上手くいく才能なんか、デフォルトで皆無なのですから。
頭の中でシーンを組み立てるといった膨大な情報処理なんて天才でない限りできる芸当ではありません。
良い悪い以前に必ず間違えます。
そしてプロだってその様な構成のヘッタクソな人も実際にいます。
商業映像でもその程度の品質しか獲得できていない監督さんだってまかり通っているのです。
名前まで挙げませんが、とにかくいろんな要素を突っ込んでお話しやその意図する部分が表現出来ていない、
感情が伝わるための必要な尺を取っていない、そんな作品もたくさん見かけます。
だから“フツーに面白い”とはとても重要な事なんですね。
箱書きのような構成法は鉄板ではありません。
構成法は他にもありますが、大切なことは自分なりにやりやすい方法で検討する、という事です。
やりやすい方法でシナリオを書いてみて、それだけで終わってはいけません。
思いついたエピソードの構成検討は必ずやらなければなりません。
自分がどう「書きたい」のではなく、お客さんからどう「見えるのか」、これがシナリオ構成の本質のひとつです。
素人さんは「自分が書きたい」で終わってしまいます。
肝心の見る人目線で検討していません。
だからただの独りよがりなシナリオとなってしまいます。
さてさて、この作品には他にもたくさん魅力があります。
例えばヒロイン茉莉香と他のキャラクターとの関係性、相関性は一貫しています。ブレていません。
絶対的なメインヒロインが茉莉香で、彼女中心に作品世界が回っています。
メインキャラクターとは「こうやって描くんだよ」という手本が見て取れます。
詳しくは見て貰うしかありませんが、そういう所も含めて作品から読み取って貰えるかと思います。
各話の最後に洒落た演出もなされています。
エンドカードというカットが毎話一番最後に映されるのですが、佐藤竜雄監督の直筆でそのお話しの一番のセリフが佐藤監督の落款付きで表されています。
「海賊は結果オーライ」とか・・・
書かれている文言がそのお話しのキーワードです。
言い換えれば「その一言を伝えたくてこんなお話しを書いてみました」というようなものです。
とても締めくくりには有効な表現方法だと思いました。
こういったことも佐藤監督がエピソードの配置を考えながら「今よりもっと面白くなるには」と検討した結果なのではないのでしょうか。
やはりこのモーパイは「フツーに面白い」。