アサルトリリィBOUQET|シナリオスキル|可愛い女の子が戦う理由
今回のお題は
「アサルトリリィBOUQET(あさるとりりぃぶーけ)」から読み解く可愛い女の子が戦う理由、です。
ちょっと違うお話から入りますが、
アサルトリリィを見ようと思った訳は直前に見ていた「3月のライオン」にあります。
NHKで放映された羽海野チカさん原作、SHAFT+新房昭之監督の作品です。
過去にこのブログでも紹介しましたがその時点では完結していない内に書きました。
その「3月のライオン」を最後まで見てみて思うことは、SHAFTらしくない、ということでした。
あまりにも長くて、長すぎて正直飽きがきます。
第一期22話、第二期22話、合計44話で4クールもあります。
新房監督作品は評価します。
でも、「大好きな中トロだって食事中全部中トロ」というわけにいきません。
好きなモノでも飽きてきます。
監督やプロダクトが同じならば当然描かれ方も同じになります。
原作のボリュームが大きいにしてもそれをそのままアニメ化して見せると長すぎます。
特に、長くてもロードムービー調(展開が段階的に変化する)ならば耐えられますが、「3月のライオン」の主役に与えられている時間、描かれる時間はそれほど長くありません。
高校時代の1〜2年です。
描かれる時系列が1年であっても別に4クールやったって構わないものではありますが、少なくとも劇的にはなりにくくなります。
展開が乏しくなります。
結局「3月のライオン」では脇役等主役以外の人物エピソードに頼らざるを得なくなり、単調になります。
単調になる、と言うことは主役の変化も乏しくなる、ということです。
非常にSHAFTらしくない。
とてもNHKチックでありました。
NHKのアニメは、アニメに限りませんがこういったセンスがダサい、のです。
だからトレンドについて行けません。
トレンドといったって最先端でなければならない、という事ではありません。
「3月のライオン」は確かにいい作品です。アニメ品質も申し分ない、でもいくらいい作品だからといって、それとダラダラと長くすることとは別の話です。
通常アニメ的には子供向けの定番作でない限り長くしません。
1クールか、1クールやってみて評判がよければ2クールやったり、こういった飽きが来るのを避けてスピンオフを挟んだりします。
「3月のライオン」は妖怪ウオッチやポケモンみたいな作品カテゴリーではありません。
あのプリキュアだって定期的に変えています。
未来少年コナンじゃないのでこのコンテンツで長くするのはいかがなモノか、と思いました。
そういった理由かどうかはわかりませんが、この時期に作られたSHAFT製のアニメはコケています。
「打ち上げ花火」もそうだし、「3月のライオン」もあまりいい評価を受けていません。
「打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか」はキャスティングで問題だし、「3月のライオン」は延々と描いて変化に乏しい、モチーフも流行の将棋ネタで拡張しない。
これはイチアニメファンとしてフラストレーションが溜まります。
そこでSHAFTらしい作品が見たくて今回の「アサルトリリィBOUQET」に至りました。
長くなりましたが、本題です。
「アサルトリリィBOUQET」はSHAFT製ですが新房監督作品ではありません。
ドール制作で知られるアゾンインターナショナルとacusの企画でメディアミックス作品です。
どちらも人形造形系の会社、団体のようです。
アゾンはアキバのラジ館の上の方にお店があります。フィギュアというよりリアルライクなドールの会社です。
最近見に行ってませんが、たぶん大きな梨璃や夢結さまのドールが高額で売っていることでしょう。
「アサルトリリィ」はけっこう異色の取り合わせが目立ちます。
ドール会社のプロダクトであること、アゾンのプロデュースは見たことがありません。
音楽プロデュースがブシロードであること、ランティスではありません。
なによりSHAFT元請けであること、ですね。サンジゲンやサンライズではありません。
アニメ版は「BOUQET」として2020年秋期に放映されました。
佐伯昭志監督、シリーズ構成は佐伯監督と、SHAFTといえば東富耶子さんが担われています。
キャラデザは細井美枝子さんで可愛い絵になっていますが、登場人物の着る制服がフレアのミニスカートだからでしょうか、やたら太モモと腰回りが大きく描かれています。
物語は、対話の出来ない異生物「ヒュージ」と戦う特殊な能力者「リリィ」の姿を描いたものです。バトルモノですね。
普通、戦う戦士は泥臭いものでありますが「アサルトリリィ」では徹底的に清楚に描かれています。
その要素として百合を使っています。
女の子同士の愛情関係ですね。
舞台も女学園に置かれていて百合の園を演出しています。
昔からアニメでは美少女が戦うストーリーテラーが王道です。これはウケがいいからそうなっている、絵になるから繰り返し使われる設定だと思われますが、確かに面白くなりやすい。
肝心なのはその理由にあります。
理由とはモチーフです。
バトルを通じて何を描いているのか、といえばそれは・・・
女の子の繋がりです。それも友情ではなくもっと深い愛情です。
百合モノは心理描写が深くて、私もけっこう好きでいくつか見ていますが、愛情の具体的行動までは至りません。その寸前で止めてあります。
「気持ち」の表現として相手を敬う感情がバトルを通じて描かれています。
ヒロインの一柳梨璃(ひとつやなぎりり)は特別な能力「レアスキル」がハッキリしない段階で舞台の「百合ヶ丘女学院」に入学します。
非常に慈愛に満ちた人格が与えられていて、人を集める事が得意なキャラクターです。
梨璃はおっとりとした一見牧歌的なキャラですが、こういったキャラクターは何かにつけ“丸い”描写が似合います。
本来カリスマとするならばシャープな印象があってもいいと思いますが、梨璃の目の描き方を見ると丸っこい。
丸くすると幼稚、稚拙、大人より子供といった印象がありますが、ギャップを持たせると包容力だったり聖母的なイメージになります。
梨璃のカリスマっぷりもそうですが、シリーズのモチーフはヒュージとの戦いであるものの、描かれている本質は「思いやる気持ち」になっています。
バトル面ではそれぞれのリリィが武器として持つ「チャーム」に人物の特徴付けがなされていて個性を演出しています。
チャームは基本的に刃物的な武器ですがそれぞれデザインや能力が違っていて、さながらジオン軍のモビルスーツ的な拡張性があります。
感情面ではシリーズ通して「誰かのために」というテーマで描かれているようです。
梨璃の相方、白井夢結(しらいゆゆ)は姉役の「シュッツエンゲル」として、梨璃の誕生日にわざわざ梨璃の故郷まで出向いて梨璃の好物であるラムネを買ってきます。
電車を乗り継いで、初夏の暑い中汗をかきながら、靴を汚しながらラムネを探します。
郭神淋(くぉしぇんりん)は同室の王雨嘉(わんゆーじあ)の自信を取り戻すために試し合いを行います。このシーンはカッコいい。
楓・J・ヌーベル(かえで・じょあん・ぬーべる)は周りの仲間を騙してまで梨璃の気持ちに寄り添います。
他にも総じて描かれる行動理由に「思いやり」が描かれます。
SHAFTは単なるアニメ制作会社ですが、こういった丁寧な描写まで行き届くのがSHAFTの特徴であるといつも思います。
佐伯監督も新房昭之監督と近い方なので随所に新房イズムも描かれています。
あくまで「清く正しく美しく」が百合モノの前提なので品良くまとめられています。空中から落下する場合でもパラシュートとか極端な能力描写に頼らず、大きなパラソルで降りてきたりします。
そういった女の子の可愛さを使って厳しい命のやりとりを描いているのが「アサルトリリィBOUQET」です。
また、映像として毎回、初めてシーンに登場するキャラクターにはスーパーで固有名詞が映されています。
毎回です。これって今までなかなか見なかった演出法です。
それも主要なキャストだけでなく、「BOUQET」に出演しないモブキャラクターまで全員出しています、それもデザインされているので3人も登場すればスーパーだけで画面がいっぱいになり読み切れません。
それでも、伝達としてではなく、演出として見せています。
このような工夫に細かいのが品質に繋がるのですね。
そして「3月のライオン」みたいに長くありません。
制作的にはひとつのコンテンツを長くやった方が効率はいいのでしょう。設定もデザインも使い回しが出来ます。
それでもアニメでシリーズを長くしないのは訳があります。
個々のコンテンツによりますが本来短い時間でも、たった1秒の描写でも手間暇を掛けているのが日本のアニメのいいところだと思います。
その濃い密度を楽しませてくれるのが「アサルトリリィBOUQET」です。