アクションヒロイン チアフルーツ|シナリオスキル|構成の着眼点
今回のお題は
「アクションヒロイン チアフルーツ」から読み解く構成の着眼点、です。
“チアフルーツ” は一見平凡に見て取れるアクションヒロイン物ですが、実はけっこう繊細に作られているので紹介しようと思いました。
アクションヒロインとは、子供向けのコンテンツでヒーロー物というジャンルがあります。
よく遊園地や、今はほとんど廃れましたが昔はデパートの屋上などでイベントとして戦隊モノや仮面ライダーやウルトラマンのショーなどがありました。
今でもやっているのかな?
総じてアクションヒーローショーなんですが、“ヒロイン”なので女の子が中心の戦隊モノです。
私が子供の頃、秘密戦隊ゴレンジャーという戦隊モノのパイオニア的な特撮作品がありました。
とても流行ったのですが特徴としてキャラクターを色分けして個性を見える形にしてあります。
だから戦隊モノというとなんとなく色分けされているのが自然に見えてしまいます。
チアフルーツもキャラクターそれぞれ赤、黄、緑、青、ピンク、そしてサブキャラクターとして白、黒、紫に分かれています。
あらすじはこうです。
牧歌的な田舎の典型である陽菜野市という町が舞台になっています。
目立った名物や特徴もなく観光資源も乏しい町で展開されるお話です。
このあたり、今の日本のリアリティがあります。
メインヒロインの城ヶ根御前(しろがねみさき)の家は地元の大地主で祖父は他界していますが元市長で地域振興に尽力していました。
御前は祖父の意思を受け継いで陽菜野市をなんとか振興させようとご当地名物としてアクションヒロインユニットを立ち上げて奮闘する、といったお話しです。
地域振興の企画で “ゆるキャラ”ってありますよね。
あれって熊本や彦根が成功したきっかけで全国的に流行りました。
コンテンツとしての “ゆるキャラ”の代わりにアクションヒロインショーになっている感じです。
国もそのような地域振興を促すように「ふるさと特例法案」なる設定もされています。
なんの変哲もない陽菜野市を活性化させるためにインターチェンジを作るのではなく、ヒロインショーという名物を作ってお客さんを誘致して地域振興を目論む御前ですが当然ながら上手くいきません。
アイディアも浮かびません。
しかも祖父が作った市民ホールが「オープン以来満席になったことがない」いわゆるハコ物だったために取り壊しの危機に見舞われています。
大好きなおじいちゃんが作ったホールを満席にして取り壊しを免れたい御前は悩みますが、ある時同じ高校の生徒がヒーローショーを真似ている場面に遭遇します。
お話し的にはサクセスストーリーのようになっています。つまりチアフルーツがご当地ヒロインとして成功する過程を語ったものであります。
2017年公開のオリジナルアニメで原作ものではありません。
草川啓造監督、脚本は荒川稔久さんで、往年の大ベテランコンビです。
この2人の名前を知らない人はアニメ通ではありません。昔から有名なアニメクリエイターな方々です。
だからさっすが画もシナリオも安定しています、このチアフルーツは。
アニメ制作はディオメディアです。
ディオメディアは可愛いキャラクターを描くのが得意な会社でもあり、キャラデザの井出直美さんの絵も高品質を獲得しています。
ただし、良く出来ている作品ではありますがとっても
「地味」なんです。
女子高生が奮闘するお話しはアニメ的にいくらでもありますが・・・
例えばラブライブ!や古いですがけいおん!とか、最近ではバンドリ!みたいな、ビックリマークの付くようなタイトルの作品と比べるとどうしても地味に見えてしまいます。
やはりヒーローモノという題材が分かる人にしか分からないニッチだからかもしれません。
アクションヒロインという言葉もどのようなカテゴリーなのかあまりピンとこないのではないかと思われます。
そんな事情があったのか、無かったのか分かりませんが、シリーズ途中からオープニングの最後にアクションヒロインについてのナレーションが加わりましたw
さて、ようやく本題です。前振りが長すぎました。
シナリオ的にこの作品の優れているところはたくさん見て取れます。
前振りが長すぎたので箇条書きで紹介します。
1,導入部が主役になっていない
シリーズ第一話は主役である城ヶ根御前についてのエピソードから入っていません。
シナリオ的な定石を話せば、お話しとは主役で始まり主役で終わるような語り口にするべき、なんですがチアフルーツの導入部はサブキャラクターである黄瀬美柑(きせみかん)と妹の話になっています。
もちろん主役である御前の背景も出されるのですが導入部第一話のメインストーリーはチアフルーツを立ち上げるキッカケを作った美柑のエピソードから始まります。
美柑はチアフルーツの黄色のメンバーではありますが、センターでもリーダーでもないキャラクターであり、いわば脇役です。
ただし美柑は重要な局面でのキーマン的な位置付けがなされています。
ヒロインショーの原型の発起人であり、ショーのシナリオ担当でもあり、チアフルーツというネーミングも美柑が考案しました。
私はこれが悪いとはぜんぜん感じませんでした。
むしろこういう見せ方もあるんだ、と感心してしまいました。
そして大事な導入部でもある第一話では美柑が妹を想う気持ちもすこぶる伝わってきます。
さっすが往年の脚本家が書いただけあって納得出来るお話になっています。
美柑は悲しむ妹のために後のチアフルーツのセンターになる赤城杏(あかぎあん)に相談します。
ここでもメインヒロインの御前に相談するシチュエーションにしないで、あえて杏に助けを求める流れになっています。
このように最近のシナリオでは脇役だからといって、主役より露出も個性付けも演出も構成も少なくしていません。
むしろ主役と同等かそれ以上描かれるケースを多く見受けます。
露出を多くすると言うことはそれだけ個性をハッキリさせなければならないということです。
現代では主役も脇役も垣根がありません。だからキャラクターそれぞれ魅力を最大限付けなければなりません。
2,キャラクターの役割がしっかり分かれている
主役級の個性付けを、何を持ってして描くのか、といえばひとつは専門性です。
キャラクターそれぞれ違った得意分野、専門分野、担当、役割があります。
題材がエンターテイメントショーなので映像コンテンツの作りと似ている部分があるので、見ていても分かりやすく描かれています。
このアニメを見ていても、例えばジョージ・クルーニー主演の「オーシャンズ11」などを見てみても、まず役割分担があって個性が乗っかっています。
泥棒稼業にしてもこのようなショーの構成要素を見ても専門の役割のあるキャラクターが集まって、それを束ねるプロデューサーがいます。
キャラクターの配置や構成要素はまずこの専門担当にキャラクターを置いて、そしてその専門性に由来した個性だったり性格だったり癖というものを加えていきます。
やっぱり人間が何か大きな事を企てようとするならば、独りでは出来ません。
ひとりだけでは出来ることの限界が近くてお話しにはなりにくいんです。
複数の人が同じ意思を持って行動した方がお話し的にも拡張出来て面白くなる余地が生まれます。
複数の人が集まって同じ意思を共有しようとするならば、それをまとめるキャラクターが必要になりますし、また束ねる人を支える役割の人も必要になります。
メインヒロインの御前はプロデューサー役に徹しています。他の分野には個性付けも含めて介入しません。
配役の役割分担も構成でしっかり分けられているのがこの作品の特徴でもあります。
チアフルーツを見ているとそのあたりの構成が本当に分かりやすく、上手に描かれていているんです。
だから「構成が分からない」なんてシナリオを書く人が言うことではありません。
このような作品を見れば一目瞭然、答えがそのまま描かれています。
3,ストーリーインストーリー
これはファンタジーでも同じ事なんですが、本編のお話しの中でお話しをしています。
つまり、チアフルーツの場合はお話しの中でヒロインショーというお芝居を展開するわけです。
芝居なのでストーリーとアクションがあります。無論シナリオも存在します。
お話しの中でお話しをする、いわゆるストーリーインストーリーです。
シリーズが進んでクライマックスに近いターニングポイントでは、どのような見せ方をしているのかというと、繰り広げられているショーの進行中に見せています。
彼女たちがショーを見せている中で問題が起きたり葛藤や変化を置いています。
ストーリーインストーリーの構成要素として、チアフルーツの場合ですが日常のシーンと非日常のヒロインショーを演じているシーンと2通り存在しています。
この二つの世界は勝手が違います。
日常では出来ても非日常の方では出来ないことだったりメリットがカセになったり、同じアクションでも違った意味になったり、そして対比(比べること)も出来たりします。
だから見ていて楽しいのですが、ただしシナリオ的に構成力が要求される高等技術です。
シナリオの中にもうひとつシナリオを書くようなものです。
手間も掛かるし設計がとても難しいんですが、その分面白い作品に仕上げることが出来たりします。
4,拡張していく問題
メインヒロインの御前が抱えている問題が、はじめはあまり積極的に描かれません。
「まあ、そういうこともあるよね」程度にしか語られていない一見小さな問題が徐々に深刻化していきます。
シナリオに登場するキャラクターは何を描くか、と言えば「困りまくる様」を描く物です。
スクールでも順風満帆な描写主体ではなく困窮している様子を描いてさんざん困らせろ、と教わります。
ただし、どのように困らせるか、までは教えません。
その例がチアフルーツには具体的に描かれています。
御前のネガティブポイントは「不運」です。
それがチアフルーツの展開するヒナネクターショーが成長して行くにつれ深刻化していきます。
それが御前のカセになっていきます。
さて、そのカセをどのように克服するのか、というのが見所でもあります。
いきなりデカいカセをぶつけてもそれはそれで展開できますが、このようにカセも状況に応じて膨らんでいく、またはしぼんでいく展開も変化を演出する上でのテクニックです。
アクションヒロイン チアフルーツは一見すると本当に稚拙なお話しっぽい印象ですがなかなか計算されたお話の展開を感じることが出来ます。
それは構成の着眼点を発見出来るほどの作品であります。
やっぱりこういった本質を描けるから長年脚本家として、またアニメ監督としての地位が確立されたのではないか、と思います。
また、いろんな昔のアニメや特撮作品のオマージュ的な描写が所々に描かれていて「あ〜昔はこんなんだったよね〜」と感じさせてくれる作品です。