「ハナヤマタ」から読み解くシナリオ脚本スキル

ハナヤマタ|シナリオスキル|テーマに集まる人物たち

今回のお題は

 

「ハナヤマタ」から読み解くテーマに集まる人物たち、です。

 

いま、この記事を書いている時期は梅雨どきを過ぎた真夏、であります。

 

私の住んでいる埼玉県は暑い季節になぜか「よさこい」が流行ります、というかよさこいのお祭りが何カ所かで開催されましてテレビでも中継されます。

 

なぜ四国発祥のよさこいが埼玉でやるのかは分かりませんが、このクソ暑い中独特の踊りを一所懸命踊っている姿をみて思い出した作品を今回は紹介します。

 

私的に、若い人が何かの目標に向かって葛藤しながら描かれる成長物語に感銘を受けることが多いのです。

 

この「ハナヤマタ」もそういった世界観が鮮やかに描かれている傑作です。

 

浜弓場双さんの漫画原作モノです。

 

芳分社のまんがタイムきららフォワードに連載されていました。

 

きらら系にしては極端なデフォルメやのほほんとした女の子の日常系とかではなく、至って普通(?)の女子中学生の青春モノであります。

 

日本独特の踊りである「よさこい」を題材にした女の子の成長物語、いわゆるサクセスストーリーです。

 

アニメ版は2014年に発表されました。

 

監督は いしづかあつこさんです。脚本、シリーズ構成はご存じ吉田玲子さん、作画は渡辺敦子さん、ナベアツです。

 

いしづか監督はマッドハウスに所属している実力派の監督さんです。

 

この方の作る映像が面白いのですが、特にあまり難しくしない演出でも心に響く作品を作られています。

 

個人的な意見です。

 

最近では「宇宙よりも遠い場所」、「プリンス・オブ・ストライド・オルタナティブ」、「ノーゲーム・ノーライフ」などを手がけておられます。

 

個人的に「ノーゲーム・ノーライフ」はいただけませんでしたが、青春モノを得意とする注目すべき女流監督さんです。

 

さて、

 

お題に「テーマに集まる」としましたが、そのロジックは至って単純です。故に分かりやすいのです。

 

今回の「ハナヤマタ」ではズバリ!「よさこい」です。

 

よさこいをモチーフとして、女の子たちの境遇に変化があって、集まれた末ひとつの形を作り上げる、といったものです。

 

シナリオのテーマを決める事って案外難しく考えてしまうものです。

 

それはすでに考えはじめている作者さんの頭の中でテーマの先にあることまで思考してしまうからなのですが、いしづか監督はそこんところ明確にして描かれています。

 

「よさこいをみんなで一緒に踊ること」がテーマとして、そこに集まる人の境遇や過程を筋書き、物語としているのです。

 

ちょっと想像して貰いたいのですが、一本の太い木があるとします。

 

この太い木が「よさこい」です。

 

その枝葉に登場人物がいます。

 

そしてその枝葉は決して同じ高さ、同じ位置、同じ角度で生えてはいませんよね。

 

それぞれ違います。花が咲くのなら同じ位置には咲きません。生えてくる時間的な差もあります。でも咲くタイミングは同じだったりします。

 

無論いきなり太い木が地面から生えてくる訳ではなく“成長”して変化の末、大きな木になります。

 

このイメージがお話しの構造になるのです。

 

もっと具体的に話しましょう。

 

ヒロインの関谷なるは「いつかヒロインのように輝けるようになる」と信じる女子中学生ですが現実はそう上手くいっていません。それどころか引っ込み思案で自分から積極的な行動の出来ない人物です。

 

この子はいわゆるお話しの“タネ”ですね、シードです。

 

なるはその状況を誰かが変えてくれる、おとぎ話に登場する「王子様」を待っていました。

 

あるときに幼少の頃「よさこい」に魅了された外国人のハナ・N・フォンテーンスタンドに出会います。

 

ハナがいわゆる植物が芽吹くのに必要な水とか雨になります。

 

タネに水が加わると芽が出て成長が始まります。

 

成長していけばそこに葉っぱが増えてきます。それが笹目やや、西御門多美、常盤真智、常盤沙里などの登場人物になります。

 

集まれば茎は幹になり葉っぱは枝を付けてきます。

 

葉っぱもただ自然に枝を備えるのでは無く成長しなければなりません。

 

その成長過程に境遇別の葛藤があります。

 

葛藤を克服して枝になり、やっと幹から芽吹くことが出来るのですね。

 

そしてその木に花が咲くことにも自然には変化はしません。

 

咲かすための障害や葛藤や問題が置かれています。

 

変化があって、結果として花が咲きます。

 

変化が無ければ花は咲きません。幹と枝と葉っぱだけのただ突っ立っているだけの木です。

 

人物の抱えている問題をどうにかして解消してやっとみんなで花を咲かすことが出来るのです。

 

また抽象的になってしまいました。

 

つまりは・・・

 

なるは自分を変えたい、変わりたいと願望しているにも関わらずどうしたらいいのかが分かりません。

 

ややは輝いていたいと願望しているにかかわらず自分1人では何も出来ない現実を味わいます。

 

多美は自分の価値観よりも父親の価値観に依存して自分が本当にやりたいことを見失っています。

 

真智は姉である沙里との確執を埋めることが出来ずにいます。

 

いずれもネガティブポイントが置かれています。決して幸せではありません。

 

その解決法として“仲間の絆”という愛情で克服する様を描いているのがこの「ハナヤマタ」です。

 

登場人物同士が統合して、または反発をくり返して導かれた化学反応(これが変化)で成り立っています。

 

変化の結果、太くて強い大きな木になっていく、成長して花を咲かすことができるようになる、といったお話しなのです。

 

とっても分かりやすい。

 

私の解説の方がよっぽど分かりにくいとは思いますが一度見れば分かりますよ、とはいつも言っていることです。

 

ちなみに“ハナヤマタ”とは主要登場人物の名前の一文字目を合わせると意味が通るモノグラムです。

 

ハナとなるとややと真智と多美、で「ハナヤマタ」です。タイトル作りの参考になります。

 

特筆するべきはこの“よさこい部”のメンバーの中でも一番深刻な問題を抱えていた一番最後に加入する真智のエピソードです。

 

真智と顧問の教諭であるサリー先生こと常盤沙里は実の姉妹ですが、真智が幼少の頃、姉の沙里は親と決別して家を出て行った経緯があります。

 

これが真智にとって“大好きだった姉の裏切り”と解釈されていて、他のキャラクターの悩みのような自分1人だけの問題に留まりません。

 

とてもセンシティブな家族問題になっていました。

 

それでも親友である多美の助力と沙里の隠れた愛情により解釈を正すことが出来た真智でしたが、それでも人間なかなか素直になれないものでもあります。

 

このくだりをどう持ってくれば無理のない筋書きになるのか、どんなお話しにしたのかにこの作品のポテンシャルの高さが見て取れます。

 

真智のエピソードをコンテ切りしたのが浅香守生さんです。

 

“カードキャプターさくら”の監督さんですね。それはそれはさすがなお話しに仕上がっています。

 

それはもう見て貰うしかないのですが、常々姉に反発する真智のことを何も言わず受け入れていた沙里の姿から布石が始まっています。

 

人が素直になれる方法とは何でしょうか。

 

沙里は言葉では無く行動で示します。多美は言葉でフォローします。

 

いずれも独りだけでは成し得ませんし効果もありません。

 

複数の人物が成し得る相乗効果が見て取れるのです。

 

そして最大の難題がクライマックスに訪れます。メインヒロインがいなくなるというくだりはよくある手法でもあります。

 

木の幹を構成していた主要人物の存在が消えることは花田十輝さんの“ラブライブ!”でもありました。

 

それをどう克服するのか、そんなところもごく自然な流れで描かれていたりします。

 

今回は“木”に例えましたがこのような青春成長物語はある種テンプレ的な側面もありますが、それでも面白くなり易いから採用されています。

 

ここで奇をてらうことはリスクの方が大きくなります。

 

「同じものでも違うものを見せろ」とはハリウッドの映画プロデューサーの言葉ですがまさにこの「ハナヤマタ」は単純にその言葉を踏襲したかのようです。

 

そして個人的にとても気に入っている作品のひとつとなっています。

 

映像制作などの構図もよく“木”に例えられます。

 

映像作品という一本の木の幹から派生している枝葉の一部としてシナリオがあります。

 

他の枝には「音楽」だったり、「文芸」だったり、「撮影」だったり、「作画」「動画」など、制作に必要な様々なパートがあります。

 

それらが集まってひとつの作品になり花を咲かせることが可能になるのです。

 

テーマとそこに集まる人たちの構図、ご理解頂けましたでしょうか。

 

今回はテーマを木として人物との相関関係を例えてみましたがこういった構図は我々の社会の至るところで応用されています。

 

きっとあなたのご家族やお勤めの会社やでも同じような構図が存在しますよ。


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