「このはな綺譚」から読み解くシナリオ脚本スキル

このはな綺譚|シナリオスキル|和のテイスト

今回のお題は、

 

「このはな綺譚」から読み解く和のテイスト、です。

 

とても色彩豊かな作品に仕上がっています。

 

制作はLerche(ラルケ)で、いわゆるスタジオ雲雀が作りました。

 

仕上げ会社だけあってとても美しいのです。

 

何がそんなに美しいか、といえば“和”の表現です。

 

今回は少しシナリオから離れて“和”について考えてみましょう。

 

シナリオ的にもモチーフとして大いに参考になるはずですので。

 

日本古来のスタイルである和の世界観はそれこそ日本人にしか描けない物でもあります。

 

さて、そんな我々現代の日本人は自分たちの歴史でもある“和”についてどこまで知っているのでしょうか?

 

自然美? 日本家屋? きもの? 結い上げた髪? 男尊女卑?・・・

 

どれも今ではあまり必要とされない要素になってしまいました、これが残念。

 

でも「このはな綺譚」にはそういった忘れていた“和”というものがふんだんに使われています。

 

それも鮮やかなほどに現代の発色技術を駆使して描かれています。

 

原作は天乃咲哉さんです。さくやさんですが、女流作家さんです。

 

天乃さんは「GOSICK-ゴシック-」が有名です。過去に新房昭之監督作としてアニメ化されています。

 

監督は岡本英樹さんでシリーズ構成は吉岡たかをさんです。

 

原題は「此花亭綺譚」で、この世とあの世の間にある旅館“此花亭”を舞台としたファンタジーです。

 

此花亭に来るお客はあの世に向かう人や神様たちです。

 

旅館と言うことで、ホテルではないので洋ではなく和になるわけですね。

 

現代の日本では“和”というものは主役を退いた観がありますが、この作品のように死後や死して関係する神の存在を描く場合にはやっぱり和風になってしまいます。

 

原点なのですね、“和”って。

 

死んで棺桶に入れられるときだって着物になりますよね。

 

我々が日本人である以上、切っても切り離せないのが和の要素です。

 

先ほども問いかけましたが、そんな本当は知っていなければならない“和”のテイストについてどこまでの理解があるのでしょうか。

 

着物に触れ合う機会もありません。

 

女の子は成人式や結婚式などで着物を着ますが普段はよっぽど興味なければ縁のない物でもあります。

 

だからあまりなじみがないのですが、これが知れば知るほどシナリオ創作に役立ちます。

 

なぜならば日本人の歴史で現代の洋風のスタイルになったのは極近代ですから。

 

着る物だって圧倒的に着物を着ていた時代の方が長いのです。

 

そんな現代の日本は和洋折衷という独特の文化で発達してきた訳ですが、それはそれで素敵なスタイルだと私は思います。

 

でもその元々の形ってどうなっていたのか、それを知らなければ“和”は描けないと思われますのでちょっとだけ私の知識を「このはな綺譚」になぞらえて語ってみます。

 

「このはな綺譚」のヒロインは子狐の「柚」です。

 

小さい頃、雪に埋まっていたところを尼の比丘尼さまに助けられて育てられました。ある年齢になってから此花亭の仲居として奉公に出されます。

 

見て頂ければ分かりますがこの世界には人間と、擬人化した動物と、神様が登場します。

 

柚をはじめ此花亭の仲居はみんな擬人化した動物ですが人と変わりありません。耳と尻尾があるくらいの違いしかありません。これはアニメチックですね。

 

そして物語が載せられている世界観が“和”です。

 

みな着物を着て仕事をしています。

 

さて、

 

着物には年相応というもの、着る人の年齢が反映されることをご存じでしょうか。

 

“派手”“地味”という言葉がありますがまさに着ている着物で年齢が表現出来るのです。

 

また見た目の印象もまとう着物の色味で伝わり方が違ってきます。

 

若い人、つまり柚や連や櫻などは本当に若い世代なので派手で赤みのある、暖色系の色をまといます。

 

赤、ピンク、黄色など。

 

袖の長さも派手に繋がります。だから振り袖は若い人しか着られません。

 

対して椿や桐などは女将級の年長者なので落ち着いたえんじや紫をまといます。

 

年齢が進むにつれ派手から地味に向かうのが着物の年相応ということです。

 

あばあちゃんになればそれこそ本当に地味な色しか似合いません。グレーとか黄土色とか、色味も鮮やかさより深みの方が年配者に向きます。

 

階級や役職も色味で表現出来ます。

 

柚の先輩仲居である皐は若いのですがあえて重みのある紫を着ていたりします。

 

寒色系の方が重みが増します。

 

着物の種類でも階級や用途が表せます。

 

格式の高い順に並べてみると、留袖、訪問着、小紋、紬・・・となります。

 

留袖は“紋付き”です。背や前身頃に紋が入っています。いわゆる礼装ですね。

 

訪問着は柄袷せがしてあります。身頃や裾の柄が合わさるように作られています。お出かけ着、正装です。

 

ちなみに付下げも訪問着の一種です。付下げ柄(すいせんの花のような立ち姿)が描かれていますが訪問着と格式は同等です。

 

小紋は柄袷せしていない模様で描かれています。幾何学模様や鮫柄、縞模様など、全体的に一定の連続した柄付けがなされています。上等な普段着といったところです。

 

紬はこれこそ普段着です。柄は単純な物が主で縞、格子など織物の縦糸と横糸だけで簡単に構成できる柄が特徴です。

 

これ以外にもたくさんあります。使っている糸だって絹糸か、綿かで格も違ってきます。

 

「このはな綺譚」では仲居であっても柄袷せしてある着物を着せていますが、これはアニメだから許されるのであって実写では御法度です。

 

本来、旅館の仲居という格は綿でできた無地の地味な着物になります。

 

また草履は室内では絶対に履きません。白い足袋の姿が常識です。

 

まあ、着物通としてはツッコミどころもあるのですが、それよりも何よりも色がきれいとは先ほども言いました。

 

オープニングのタイトルでも背景には美しい流水柄で表されています。

 

他にもたくさんの“和”が描かれているのが「このはな綺譚」です。

 

もっと解説したいところがたくさんあるのですがキリがないのでまたの機会にします。

 

最後にシナリオのお話しですが、

 

やっぱりこの世とあの世の間にある旅館ということで、あの世に旅立つ旅人が一服する場所、という設定がなされています。

 

普通はせいぜい三途の川くらいしか思いつきませんが、ここにあえて旅館という休める場所を置くことで訪れるお客とそれをもてなすスタッフとの関わり合いをドラマ化することが出来ます。

 

これが肝心なのですが、

 

「普通はこれ」というシチュエーションに“例えば”を加味してみます。

 

例えば、人が死んであの世に旅立つとき、道中にそんな旅館があったらどうなるのか、どんな会話をしてどんなもてなしがお客の喜びに繋がるのか・・・

 

そうなんです。

 

人の集まれる場所さえあれば、そこからドラマというものが派生できるのですね。

 

とても大切な要素です。

 

だからシナリオの“柱”は一発目に書くのです。

 

和の世界はとても素敵な要素が詰まっています。

 

なにより我々にはそのDNAが組み込まれていて京都や鎌倉など古い文化のあるところに行けばやっぱり落ち着きます。

 

シナリオというだけでなくこういった“和”を知ること、“和”を感じることを是非、オススメしたいと思います。

 

でも着物って今も昔もお高いのですw


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