こばと。|シナリオスキル|謎の主人公
今回のお題は
「こばと。」から読み解く謎の主人公、です。
関西の漫画クリエイターグループ、CLANP原作のファンタジーです。
CLANPと言えば「カードキャプターさくら」が有名でしょう。
アニメ版は漫画版の「こばと。」と同じ世界観で描かれた「WISH」との混作のようです。
他のCLANP作品に登場するキャラクターもいっぱい出てきます。
漫画版とアニメ版には相違があります。
アニメ版は増原光幸監督、シリーズ構成は横手美智子さんです。
脚本家陣は吉田玲子さん、池田眞美子さん、山田由香さんとCLANPの大川七瀬さん、あの水島努監督も描かれています。
そうそうたる面々ですね。
それだけ原作がしっかりしていると言うことで、とても感情豊かなアニメです。
2009年にNHKBSで放映されました。これも古い作品になってしまいました。
それでも、今見ても見劣りしない素晴らしい作品に仕上がっています。
NHKで放映される作品はどうもNHKチックであんまり好きではありませんがたまに当たりがあります。
今回の「こばと。」もそのひとつです。
ヒロインは花戸小鳩という女の子です。
ある日公園にて監督役である、喋るぬいぐるみの“いおりょぎさん”とともに突如現れました。
さて、
この作品はヒロインのこばとのお話なのですが、はじめから謎の多い設定になっています。
何者なのか、目的は何か、どうして現れたのか、
そして、それが明かされるのがクライマックスの23話目と最終回の24話目になっています。
それまで2クール分、シリーズ通してこばとの個性や活躍だけ描かれます。
こばとという女の子はどういう人物なのか、それしか見せていません。
こばとは監督役のいおりょぎさんと共に人を癒やすことで獲得できる通称“こんぺいとう”集めに奔走します。
当座の目的は「願いを叶えるため季節が4つ過ぎるまでにこんぺいとうを瓶いっぱいにすること」です。
今回のテーマ、本当は「癒やす」という形容の具体的な表し方・・・とかにしようと思っていましたが止めました。
なんでそうしたのか、それは改めてこの作品を一通り見てみてお話しのまとめ方がとてもきれいで秀逸だったからです。
そう、2クール使って何を見せたかったのか、と言えば最後の方の数シーンを見せたかったのではないでしょうか。
ほとんどその布石にシリーズまるごと使っています、と言っても差し支えないと思います。
このような布石とか伏線にはシナリオ的にルールが存在します。
それは絶対に、絶対ですよ、タネを明かさなければなりません。
そのタイミングは作者によりますがお話しが終わるまでに必ずタネ明かしを書き込みます、書かなきゃダメです。
「観客の想像に・・・」任せてはダメです。想像に任せる事が出来るのは文字媒体だけです。
必ず回収します。明かさないと未完成に見えてしまいます。
それは観客の期待に背く行為になってしまいます。
だから続編とか、考慮しているかもしれませんが一定の観客が納得する答えは見せなければなりません。
これ、マストです。憶えておいて下さい。
そしてこの「こばと。」はその答え合わせを最終話直前に表されます。
クライマックスとエンディングです。
そこに焦点を合わせて描かれています。
それまではこばとが舞い降りた人間界での出来事とその経過を見せるだけで、こばとの本当の正体とか、こばと自身の境遇などの描写はあまり描かれません。
言うなれば観客を最後まで離さないシナリオです。
「知りたければ最後まで全部見てちょうだい」シナリオです。
そしてそのシリーズ全般を使ってこばとという人物を丁寧に描いて表されています。
少しずつ、少しずつこばとに感情が移るように設計されています。
そして一番興味のあるこばとの正体がようやく明かされて、そして消えていきます。
クライマックスでは観客的にはまだ疑問が解消されません。
その収拾はエンディングでまとめられます。
そのエンディングについては最後に書きます。
もうひとつ見て取れる分かりやすい描写法をお伝えします。
「こばと。」に限らずCLANPの作品では顕著に“感情の裏返し”演出が使われています。
“感情の裏返し”とは本心で感じている感情と真反対の表現をすることです。
あえて反対の感情表現をすることで本心を際立たせて浮き彫りにさせます。
つまり表面と内面に差を付けることで伝わる意味が加速するのですね。
その組み合わせが絶妙なのですが、カンタンに言うと、
「こばと。」のエンディングテーマで中島愛さんの歌の通り、
♪うれしくって〜も涙が、出るなんてふし〜ぎ〜だ〜♪
これです、これ。
嬉しいから笑う、ではなく、悲しいから涙を流す、のではありません。
これじゃ普通っぽすぎます。
だから真反対にして見た目を伝えるのではなく、意味を伝えます。
この演出はこの作品中、特にクライマックスに近づくにつれマシマシで表現されています。
見た目と伝わる感情との乖離が本当の意味の深度を深める、というテクニックです。
さてさて、
肝心のエンディングについてネタバレにならない程度に少しだけ。
「こばと。」の脚本家陣の中に先ほど紹介していない人がいます。
平見瞠(ひらみみはる)さんです。
この方の脚本は演出が特に優れていて私のイチオシな脚本家です。
最近は表だって出てきません。寂しい限りですがこの「こばと。」の放映当時はよくテロップに名前がありました。
浅香守生監督や水島努監督の作品に参加されていました。佐藤順一監督の「カレイドスター」でも書かれていました。
けっこう昔から書かれていた方と思われます。それでも最近の作品として「かくりよの宿飯」にも参加されています。
ウィキペディアでも出てこない脚本家ですがなんと言いましょうか、物事の本質を表現する達人だと思います。
当代でも本質をえぐり出す気鋭の脚本家はたくさんおられます。
でも平見さんのホンはえぐる、というよりも「このお話の本質はこういうことで表すと見ている人の心を動かせるよ」というものです。
とてもやわらかいのです。
だから私の大好きな脚本家のひとりであります。
「こばと。」では最終話を担当されていました。
最終話、エンディングですね、もうクライマックスは終わったのであとはお話しを鎮めるだけです。
でも申したとおり、観客にはまだ伝えなければならないことが残った状態です。
何を伝えなければならないのか、それは
「ハッピーエンド」
です。
その描写力と言ったらハンパありません。
こばとが劇中に歌うテーマ曲があります。
こばと役の花澤香菜さんが歌う「あした来る日」です。
それがシリーズ最後のエンディングでも使われていますがそれと共に、見事に観客が納得する素晴らしくきれいな仕上げをされています。
もっぱらシリーズの最初と最後は監督かシリーズ構成作家が書くのが通例です。
横手美智子さんはクライマックスである23話を書かれていますが最終話はこの平見瞠さんが書かれています。
これは特筆に値するキャスティングと評価します。
そしてその通り、素晴らしいエンディングを持って締めくくられています。
これまで申したように、この作品はクライマックスとエンディングのためだけに書かれたシナリオです。
その重責をシリーズ構成ではなく、吉田玲子さんではなく、平見瞠さんに任されています。
それは実力がないと絶対に任されません。
こばとはどんなシナリオで藤本清和と再会するのか、どのような筋書きでハッピーエンドとするのか、
エンディングのお手本が見て取れます。
私の記事ではあんまり上手く表現できないので実際に見て貰うしかありませんが、そういった高い品質を備えた秀作であるのがこの「こばと。」なんですね。
実力者が書いた最終話とはどんなものなのか、ぜひご覧になって頂きたいものです。
ただし、シリーズ全部見ないとちゃんと感情移入出来ませんのでそのつもりで。